連載
ぼくらの遍路は
関口 尚 Hisashi Sekiguchi

 駄目だ。この班の面子とは合わねえ。一度そう思ったら親しくする気がゼロになった。生田剣也(けんや)は七班のメンバーからわざと遅れて歩いた。
 あの玲(れい)ってやつは記憶がないなんて言いやがる。みんな信じているようだが、記憶がないふりをして注目を引きたいだけかもしれねえ。コーディネーターの木戸は真面目で面白くねえし、吉田なんて同じ二十二歳とは思えないくらい爺くさい。太陽はその顔を思い浮かべるだけでも苛々する。筋肉自慢ばかりしやがって。ああいう能天気な体育会系はみんな滅んでほしい。
 大学でつるんでいるやつらに班行動で回るお遍路に参加すると告げたら、「班には女もいるんだろ。二ヶ月もいっしょにいたら彼女のひとりやふたりできちまうかもな」なんて言ってきた。ばか言え。別に彼女が欲しいわけじゃない。ホテルに連れこめる女を一匹か二匹、見繕えればそれでいい。そう思ってた。
 けれど、目論見は大外れだ。麻耶(まや)はべらべらしゃべってうるせえ。花凛(かりん)はきれいでこいつは当たりかと思ったが全然しゃべらなくて薄気味悪い。
 うるさい女も辛気(しんき)くさい女も嫌いだ。遊びは遊び。そうしたことが理解できなそうなふたりと同じ班になっちまった。近づく気にもならねえ。
 吉野川のばかみたいに広い中州を進む。前も後ろも誰もいやしない。うつむいて歩いていると、うどん屋での一件が思い出されて声を張り上げた。
「太陽のくそったれめ!」
 見渡す限りの田畑で誰もいない。悪態はつき放題だ。
「無駄な筋肉自慢をしやがって、あほたれが! てめえは脳みそまで筋肉でできてんのかよ!」
 ことの発端となった握り飯を、太陽はひと口で食べてなにもなかったことにした。あれほど人をばかにした態度はない。軽んじやがって。なにがお接待だ。うどん屋のばばあも余計な握り飯を渡してきやがって。あんなのお節介じゃねえか。まったくお遍路はくだらねえ。
 お遍路プロジェクトはインターネット上でも情報が共有できる。ツイッターやインスタグラムで「OHENRO88」のハッシュタグをつければ、参加者の情報を共有できた。いまどのあたりを歩いているかとか、どんなものを見つけたとか、文字や画像で共有できるわけだ。
 けれども、剣也はあえてハッシュタグをつけずに書きこんだ。ほかの参加者と繋がる気なんてさらさらない。もちろん、参加者にアカウントは教えていない。ツイッターは悪態と陰口の場。そう決めている。
〈お遍路なんてマジでだりぃ〉
〈歩く意味がわかんねえ〉
〈ひでえ事故が起こってお遍路プロジェクトが中止にならねえかな〉
 驚いたことに太陽も玲もツイッターをやっていないという。説明会でハッシュタグの説明があったとき、ぽかんとしていた。麻耶はアカウントを持っているが書きこんだことがないそうだ。また、麻耶はラインをやっていないんだとか。あんな便利で誰もがやっているコミュニケーションアプリを使っていないなんて信じられねえ。



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〈プロフィール〉
関口 尚(せきぐち・ひさし)
1972年、栃木県生まれ。99年、茨城大学大学院人文科学研究科を修了。
2002年、『プリズムの夏』で第15回小説すばる新人賞を受賞して、作家デビューする。2007年、『空をつかむまで』で第22回坪田譲治文学賞を受賞。
著書に、『君に舞い降りる白』『パコと魔法の絵本』『はとの神様』などがある。
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12(最終回)
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