連載
ぼくらの遍路は
11 関口 尚 Hisashi Sekiguchi

 手持ち花火ではしゃぎやがって小学生じゃあるまいし。剣也(けんや)は苦笑しつつも花火の輪に加わった。
 地面に立てられたロウソクで花火の先端のこよりに火を点ける。ぱっと火花が散って辺りが明るくなる。剣也が手にしたのはススキの穂のように火花が長く噴射されるタイプだった。煙とともに火薬のにおいが立ちこめる。火花の色は途中で黄色から赤に変わり、その光に照らし出された元七班のメンバーも赤く染まった。
「こら、危ないでしょ」
 麻耶(まや)が叱るその向こうで、両手に花火を持った太陽がその場でぐるぐる回転している。「竜巻花火だー」なんて叫んでいる。あいかわらずばかなやつだ。花凛は防波堤に寄りかかるようにしてしゃがみ、線香花火を手にしていた。ぱちぱちとささやかな火花が散り、線香花火の玉はどんどん大きくなっていく。その様子を玲が傍らに立って微笑ましげに眺めていた。
 太陽が言っていた通り、玲は大人びた雰囲気をまとうようになった。出会った当初はおどおどして目も合わせなかったくせに、お遍路をしているあいだにだんだんしっかりしてきて、記憶が戻ってからはどこか余裕を見せるまでになった。
「今度は四本に挑戦だ」
 懲りずに太陽が片手に二本ずつ花火を持って回転した。離れたところで見ていると太陽を中心とした四本の光の輪が回っているかのようだ。
「だから、危ないって言ってるでしょうが」
 麻耶は口では叱りながらも笑顔を浮かべている。ぐるぐる回る太陽を見て、玲も声を上げて笑っている。
 どうやら玲の記憶が戻ったあとのぼんやりした状態は解消されつつあるようだ。会話も噛み合うようになってきた。たぶん、玲自身のセルフイメージとかキャラが定まってきたんだろう。きっかけはきっと太陽だ。あいつが帰ってきてから玲に芯ができたように感じる。
「おーい、玲もいっしょにぐるぐるやろうぜ」
 太陽が玲を呼ぶ。
「ええ、どうしようかな」
 玲は笑顔で少し遠慮しながらも太陽たちのところへ行き、花火を選び始めた。新たな花火に点火した太陽と、同じように四本の花火に火を点けた玲がぐるぐる回り出す。麻耶が手を叩いて喜んでいる。
「あんたたち、ほんとばかだねえ」
 剣也が手にしていた花火は赤から紫、それから緑へと色を変えてやがて消えた。水を張ったバケツに消えた花火を放りこむ。地面に置いておいたペットボトルの炭酸飲料を飲んだ。夜空を見上げながら飲み干す。風に乗って波の音が聞こえてくる。
 七十六番札所の金倉寺(こんそうじ)を参拝したあと、泊まる宿が見つからなくて多度津(たどつ)の海のそばの民宿まで歩くはめになった。夕食後、太陽が花火をしたいと言い出し、自ら最寄りのコンビニまで行って買ってきたので渋々外にくり出して花火を始めたのだ。



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〈プロフィール〉
関口 尚(せきぐち・ひさし)
1972年、栃木県生まれ。99年、茨城大学大学院人文科学研究科を修了。
2002年、『プリズムの夏』で第15回小説すばる新人賞を受賞して、作家デビューする。2007年、『空をつかむまで』で第22回坪田譲治文学賞を受賞。
著書に、『君に舞い降りる白』『パコと魔法の絵本』『はとの神様』などがある。
Back number
12(最終回)
11
10