連載
夫婦で行く 東南アジアの国々
「夫婦で行く 東南アジアの国々」 清水義範 Yoshinori Shimizu
第七章 インドネシア〈ジャワ島〉

 ボロブドゥールは約千年の間、土に埋もれて人の目に触れることがなかった。その理由は火山が噴火して火山灰が降り積もり寺院を覆いつくしたという説や、当時勢力を拡大していた他の宗教国が寺院を壊し土で覆い密林に隠したという説、イスラムがやってきた時、宗教戦争がおこり破壊をおそれた仏教徒が寺院を埋めてしまったなどの説がある。
 一八一四年、当時ジャワ島を占領していたイギリスの総督、トーマス・ラッフルズによりジャングルの中から「発見」され、千年にも及ぶ眠りから目覚める。アジアの歴史に深い関心を持っていたラッフルズは、巨大仏教遺跡があるという伝説を信じて小高い山を掘りおこして歴史的偉業を成し遂げたのだ。
 しかし風雨による浸食や、遺跡を覆う樹木により発掘作業は困難な道のりだった。第二次世界大戦後、主権を奪い返したオランダにより発掘調査や復元工事が何度か行われたが、崩壊の危険性があるため再び埋め戻されたりした。
 一九七三年ユネスコの主導のもと十年の歳月と二千万ドルの費用をかけて、本格的な修復作業が行われた。解体した石のひとつひとつに番号がつけられてコンピュータで管理され、新しい土木技術で排水路も設置された。周囲は遺跡公園として整備され、一九八二年に完成した。
 緑豊かで綺麗に整備された公園の中の参道を進むと、巨大なボロブドゥールが正面に見えてくる。まるで小山のようだ。ボロブドゥールは天然の丘に盛り土し石を積みあげて作られているので、内部空間を持たない。五万五千立方メートル、約三百五十万トンの石でできている。
 一辺が百二十メートルの方形の基壇の上に、方壇が五層、円壇が三層重なり、全部で九層からなっている。頂上には大ストゥーパがそびえる。高さは元々は四十二メートルあったが地震で崩れ、現在は三十五メートルだ。
 基壇から方壇部分には全面にレリーフが刻まれている。基壇のレリーフは隠されていて二重構造になっているのだが、一部露出させてあって、俗界に住む、煩悩に侵された人間の姿が見える。因果応報を表しているのだ。レリーフは深く彫られ、彫刻の動きもいきいきしている。

ボロブドゥール全景


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〈プロフィール〉
清水義範(しみず・よしのり)
1947年10月28日名古屋市生まれ。愛知教育大学卒業。81年『昭和御前試合』でデビュー。88年『国語入試問題必勝法』で第9回吉川英治文学新人賞を受賞。奇抜な発想とユーモアを駆使した小説やエッセイを次々と発表。著書多数。
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第七章 インドネシア〈バリ島〉(最終回)
第七章 インドネシア〈ジャワ島〉
第六章 マレーシア(下)
第六章 マレーシア(上)
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第四章 ベトナム(下)
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第三章 ラオス(下)
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第二章 タイ(下)
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第一章 ミャンマー(下)
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