連載
夫婦で行く 東南アジアの国々
「夫婦で行く 東南アジアの国々」 清水義範 Yoshinori Shimizu
第七章 インドネシア〈ジャワ島〉

 基壇から第一回廊への階段を上る。回廊の壁には大乗仏教の教えを描写したレリーフが千四百六十面にわたって飾られている。回廊に沿って順にレリーフを眺めていくと、仏陀の生涯をまとめた「仏伝図」や、仏教の教えを描いた物語が展開される構造になっていて、上っていくにつれ俗界から悟りの道をたどるようになっている。
 また回廊部分には手すり側や壁側にもいくつもの仏像が祀られている。
 びっしりと彫られたレリーフに描かれた人物は、釈迦をはじめ、王族、兵士など優に一万人をこえる。レリーフのスタイルはインド・グプタ朝の流れをくむジャワ様式の優美で柔らかい線で彫られているのだそうだ。
 さらに階段を上ると急に視界が開け、切窓のついた小ストゥーパが林立する広々とした円壇の部分に出る。三段の円壇には七十二基の小ストゥーパが規則正しく並び、その中央には窓のない大ストゥーパがそびえている。
 小ストゥーパには一体ずつの仏像が安置され、切窓からのぞくことができる。下二壇の切窓は菱形で不安定な俗界の人の心を表し、最上段の切窓は正方形で安定した賢者の心を表しているのだそうだ。
 この広々とした天上の空間は、仏の世界を表しているのだろうか。信者ではない我々が身を置いても、幻想的で清々しい気分にさせられる。
 遺跡の周囲は密林で遠くにムラピ山が望まれた。ここから上はすべて空なのだ、というような気分になった。
 遺跡には回廊部分に四百三十二体の仏像、小ストゥーパ内に七十二体の仏像があり、全部で五百四体の仏像になる。五百四の数を足すと九になり、九は縁起のよい数字なのだそうだ。また頂上の大ストゥーパの中にもかつては仏像が置かれていて、それを加えると五百五体となる。それは仏陀が輪廻転生した数だそうだ。
「方壇の上に円壇があって広々した感じなのがいいな」
 と私が言うと妻はこう言った。
「ボロブドゥールって巨大な曼陀羅のような気がするわ」
 ボロブドゥールが何かについては、寺院だ、王の墓だ、王朝の廟だ、僧房だなどと様々な説があるらしいが、妻の言う曼陀羅説も捨て難い気がした。真上から見たら確かに曼陀羅に似ている。

ボロブドゥール円壇の小ストゥーパと大ストゥーパ


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〈プロフィール〉
清水義範(しみず・よしのり)
1947年10月28日名古屋市生まれ。愛知教育大学卒業。81年『昭和御前試合』でデビュー。88年『国語入試問題必勝法』で第9回吉川英治文学新人賞を受賞。奇抜な発想とユーモアを駆使した小説やエッセイを次々と発表。著書多数。
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第七章 インドネシア〈バリ島〉(最終回)
第七章 インドネシア〈ジャワ島〉
第六章 マレーシア(下)
第六章 マレーシア(上)
第五章 カンボジア(下)
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第四章 ベトナム(下)
第四章 ベトナム(上)
第三章 ラオス(下)
第三章 ラオス(上)
第二章 タイ(下)
第二章 タイ(上)
第一章 ミャンマー(下)
第一章 ミャンマー(上)