よみもの・連載

永遠の犬

第二回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 ☆シーン1 服部兄弟の部屋
 服部太郎「今日から俺はオネエになる!」
 ※女装した太郎が部屋に現れる。
 服部次郎「ええっ、オネエ!? 兄貴っ、そういう趣味があったのかよ!?」
 ※次郎、裏返った声で驚き訊(たず)ねる。
 太郎「趣味じゃなく、仕事だ」
 次郎「仕事!? どういう意味だよ!?」
 太郎「依頼人の夫が新宿二丁目のゲイバーに通い詰めてるらしい。依頼人は夫が店のオネエと浮気しているんじゃないかと疑っている。だから、俺らが潜入するのさ」
 次郎「俺らって……まさか……」
 太郎「そうだ! 今日からお前もオネエだ!」
 ※太郎、次郎を人差し指で差すキメポーズ。
 
「港南(こうなん)制作」の会議スペース――円卓のデスクチェアに背を預け、プリントアウトされた「ラストオネエ」の脚本原稿の束に目を通していた南野(みなみの)は、右足で小刻みに貧乏揺すりのリズムを取っていた。
 演出の佐野(さの)、プロデューサーの吉永(よしなが)、ADのそらと加奈(かな)が、緊張した面持ちで南野の様子を窺(うかが)っていた。
 南野の正面に立つチーフプロデューサーの黒岩(くろいわ)は、判決を言い渡される被告人のような硬い表情をしていた。
 円卓から離れたパイプ椅子に座っている藤城(ふじしろ)だけが、鼻唄交じりに脚本原稿を読んでいた。
 彼が場の空気を和らげようとしているのはわかっていた。
 だが、緊張の糸を切らせないために、敢(あ)えて張り詰めた空気にしなければならない場面も必要だ。
 それがまさに、脚本会議のいまだ。
 ドラマを成功させるには、キャスティング、予算、脚本という三つの要素が必要だ。
 中でも、一番重要なのが脚本だ。
 脚本がよければ、少々キャスティングが弱くても予算が少なくても面白いドラマを作ることは可能だが、ダメな脚本ではトップスターを揃(そろ)えても大金の予算を投じても駄作しか作れない。
 脚本会議は、製作会社にとって大袈裟ではなく存亡をかけた戦いだ。
「お前、これを読んだのか?」
 脚本原稿に視線を向けたまま、南野は黒岩に訊ねた。
「もちろんです」
 南野が脚本原稿を円卓に叩(たた)きつける音が、フロアに響き渡った。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

Back number