よみもの・連載

永遠の犬

第三回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 オフホワイトの調度品で揃(そろ)えられたリビングのソファで、南野(みなみの)は聖が淹(い)れてくれたコーヒーを流し込んだ。
 朝、サイフォンで淹れたコーヒーを自宅で飲むのはいつ以来だろうか?
 ここ数年は、コンビニやコーヒーショップのコーヒーをテイクアウトしたものでサンドイッチと一緒に流し込みながら、事務所でメールチェックをするというのがルーティンだった。
 くだらないゴシップ、くだらないコメンテーター、くだらない正論……南野は、リモコンを放り投げスマートフォンを手にすると、ネットニュースの芸能欄をタップした。
 
  人気急上昇俳優、工藤達樹(くどうたつき)がオネエに?
  新ドラ『ラストオネエ』クランクイン、工藤達樹が語るオネエ論
  注目は、工藤達樹の女装姿とオネエ言葉

 十作を超える新クールの連ドラの中で、ほとんどのサイトが「ラストオネエ」を取り上げ、工藤達樹のキャスティングについて報じていた。
 残酷なほどに、主役の夏川巧(なつかわたくみ)の存在は無視されている。
 南野の目論見通りだった。
 苦労して工藤達樹をキャスティングして正解だった。
「ゼウスプロ」のゴリ押し物件の夏川巧だけでクランクインしたらと思うと、ぞっとした。
 すぐに、虚(むな)しさと怒りが込み上げてきた。

 ――『ラストオネエ』を、素晴らしいドラマに仕上げることを約束する。クランクアップしたら、また、お前が「港南(こうなん)制作」の船長だ。

 脳裏に蘇(よみがえ)る昨晩の藤城(ふじしろ)の声に、いつも以上にコーヒーを苦く感じた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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