よみもの・連載

永遠の犬

第三回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 ――愛とは決して後悔しないもの。

 交際が始まってから二年が過ぎたある日の夜、当時話題の恋愛映画を観た帰り道で聖が唐突に言った。
  
 ――え?
 ――『ある愛の詩』って映画、知ってる?
 ――知らないな。なにそれ?
 ――私達が生まれるずっと前に社会現象になった純愛映画よ。主人公のオリバーは資産家の息子で、ハーバード大学の法学部生。厳格な父親は息子に品行方正な生きかたを求め、家名を重んじるタイプ。ヒロインのジェニーは貧しい家の生まれで、母親を幼い頃に亡くして父親と二人暮らし。いまで言う、格差カップルね。

 並木道の落ち葉を踏みしめながら、聖が語り始めた。

 ――オリバーの父の猛反対を押し切り、二人は結婚するの。実家から勘当されたオリバーに貯(たくわ)えはなかった。二人はアルバイトしながら安いアパートメントでの生活を始めるんだけど、お金もなく、精神的にも肉体的にも疲れ果てていたオリバーとジェニーはクリスマスイヴの日に、些細(ささい)なことで喧嘩(けんか)をしてしまう。家を飛び出したジェニーをオリバーは必死に探し回るけれど、どこにもいなかった。夜も更けてしまい、オリバーが家に引き返すと、ジェニーが玄関先に座って泣いていた。「ごめんね」と謝るオリバーにジェニーが口にした言葉が……。
 ――あ、さっき、君が言ったセリフ?

 南野は訊ねた。

 ――うん。「愛とは決して後悔しないこと」。二人は抱き合い、仲直りしたの。その後、月日が流れ、オリバーは弁護士として自立して、経済的にも余裕が出てきたときに、ジェニーが白血病になり二十八歳の若さで旅立ってしまった。ラストに近いシーンで、妻の入院していた病院から出てきたオリバーに、彼の父親が「I'm sorry」と声をかける。オリバーは、父親の言葉を遮り言った。「愛とは決して後悔しないこと」って。
――いい話だね。今度、DVDを借りて観てみるよ。
――私も、後悔しない自信あるよ。
――え?
――南野聖も、いいなと思ってさ。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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