よみもの・連載

永遠の犬

第三回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「敗軍の将になんの用だ?」
 開口一番、南野は送話口に皮肉を送り込んだ。
『南野、どういうことだ?』
 藤城は皮肉を受け流し、硬い声で訊ねてきた。
「それは、俺がお前に言いたいセリフだと思うが」
 藤城がなんの用件でかけてきているかの見当はついていたが、南野は気づかないふりをした。
『ごまかすなよ。聖ちゃんから、連絡があったぞ』
「そうか」
 南野の予想は当たった。
『そうかじゃないだろう。別れるって、どういうことなんだ?』
「そんなことまで話してるのか。ほんと、お前ら兄妹かよ。それとも恋人か?」
 南野は、吐き捨てた。
 呆れるほど、嫌味が口を衝いた。
 誰かに口を開くたびに醜さが浮き彫りになり、自分を嫌いになってゆく。
『俺は真面目に話してるんだ。今回のドラマのことが原因なのか?』
「だと言ったら、現場復帰させてくれるのか?」
 南野は軽口を叩(たた)きながら、スリッパを咥(くわ)えてダイニングキッチンを縦横無尽に跳ね回るパステルを視線で追った。
『俺のことを嫌いになるのは仕方ないが、お前のためにやったってことだけはわかってくれ』
 悲痛な声で、藤城が訴えた。
「俺の会社を横取りした相手に、感謝しろって?」
 南野は立ち上がり、パステルを追った。 
『横取りなんかするわけ……』
「返せ!」
 パステルが椅子やテーブルの下を潜りながら、すばしっこく逃げ回った。
『だから、いまは無理だ。ドラマがクランクアップしたらタイミングを見てスタッフを諭すから、それまで休暇だと思って休んでてくれ』
「いや、いまのは違う……」
 南野が立ち止まると、パステルも立ち止まり早くおいでとばかりにスリッパを咥えたまま振り返る。
「とにかく、聖のことをお前にとやかく言われる筋合いはないし、お前のことを許す気にはなれない」
『とりあえず俺のことはいいとして、聖ちゃんには謝って帰ってきて貰(もら)うんだ』
 パステルがテーブルの下に潜り込み、頭ごとスリッパを激しく左右に振った。
「そんなに気になるなら、お前がなんとかしてやればいいさ」
 南野は四つん這(ば)いになり、パステルの隙を窺(うかが)いながら言った。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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