第四回
新堂冬樹Fuyuki Shindou
息苦しさに、南野(みなみの)は眼を開けた。
見慣れたリビングルーム……いつの間にか、眠っていたようだ。
南野は、巡らせていた視線を止めた。
南野の胸の上で身体(からだ)を丸めて眠る子犬……一瞬、なぜ子犬が部屋にいるのかわからなかったが、すぐに思い出した。
同時に、聖が家を出て行ったことも……。
「おい……苦しいから下りてくれ」
南野は言いながら、パステルの両腋(りょうわき)の下に手を差し入れ上体を起こした。
遊んで貰(もら)っていると勘違いしたのか、パステルが宙で尻尾をピコピコ振りながら南野の口を舐(な)めた。
「うわっ……おちんちんを舐めていた口で……」
南野はパステルを床に下ろし、洗面所に行くと口を漱(すす)いだ。
ブラシスタンドに立つピンクの歯ブラシから眼を逸(そ)らし、南野はダイニングキッチンに移動した。
南野のあとを、親ガモに続く子ガモのようにパステルがついて回った。
冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し喉を鳴らして飲む南野を、パステルが見上げていた。
「お前も飲むか?」
南野は、さっきあげたシチュー皿に入れた水をシンクに捨てて、新しい水を注ぐと床に置いた。
ジャブジャブと音を立て、パステルが淡いピンクの舌で水を掬(すく)った。
「それにしても、うまそうに飲むよな。犬が水を飲むシーンのオーディションがあったら、一発で合格だぞ」
軽口を叩(たた)いたことを、南野はすぐに後悔した。
「ラストオネエ」から外されたことを思い出し、嫌な気分が蘇(よみがえ)ったのだ。