よみもの・連載

永遠の犬

第四回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 息苦しさに、南野(みなみの)は眼を開けた。
 見慣れたリビングルーム……いつの間にか、眠っていたようだ。
 南野は、巡らせていた視線を止めた。
 南野の胸の上で身体(からだ)を丸めて眠る子犬……一瞬、なぜ子犬が部屋にいるのかわからなかったが、すぐに思い出した。
 同時に、聖が家を出て行ったことも……。
「おい……苦しいから下りてくれ」
 南野は言いながら、パステルの両腋(りょうわき)の下に手を差し入れ上体を起こした。
 遊んで貰(もら)っていると勘違いしたのか、パステルが宙で尻尾をピコピコ振りながら南野の口を舐(な)めた。
「うわっ……おちんちんを舐めていた口で……」
 南野はパステルを床に下ろし、洗面所に行くと口を漱(すす)いだ。
 ブラシスタンドに立つピンクの歯ブラシから眼を逸(そ)らし、南野はダイニングキッチンに移動した。
 南野のあとを、親ガモに続く子ガモのようにパステルがついて回った。
 冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し喉を鳴らして飲む南野を、パステルが見上げていた。
「お前も飲むか?」
 南野は、さっきあげたシチュー皿に入れた水をシンクに捨てて、新しい水を注ぐと床に置いた。
 ジャブジャブと音を立て、パステルが淡いピンクの舌で水を掬(すく)った。
「それにしても、うまそうに飲むよな。犬が水を飲むシーンのオーディションがあったら、一発で合格だぞ」
 軽口を叩(たた)いたことを、南野はすぐに後悔した。
「ラストオネエ」から外されたことを思い出し、嫌な気分が蘇(よみがえ)ったのだ。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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