第六回
新堂冬樹Fuyuki Shindou
グレイのカーペットが敷き詰められた十坪ほどの空間……会議室の長テーブルのデスクチェアに南野(みなみの)は座っていた。
昨日の怪我(けが)で、頭部に巻いていた包帯は外してきた。
これから大変な頼み事をする相手に、ネガティヴな印象は与えたくなかった。
テーブルの上には、缶コーヒーやミネラルウォーターのペットボトルが二本ずつ置いてあった。
まさか、ふたたび自分が「日東(にっとう)テレビ」を訪れる日がくるとは思わなかった。
「港南制作(こうなんせいさく)」が制作するドラマの九十パーセント以上は「桜(さくら)テレビ」からの委託だった。
ライバル局である「日東テレビ」と、社長である南野が距離を置くのは当然の流れだった。
だが、事情が変わった。
「港南制作」を捨てて新しい制作会社を立ち上げる肚(はら)を決めた南野にとって、「桜テレビ」に義理立てする理由はない。
良心の呵責(かしゃく)はない。
藤城(ふじしろ)と手を組み先に南野を裏切ったのは、「桜テレビ」の部長のほうだ。
南野が罪の意識を感じる必要など、どこにもない。
自分を裏切った者達を、漏れなく後悔させてやるつもりだった。
南野はスマートフォンのデジタル時計に視線を落とした。
AM11:40
南野の右足が、貧乏揺すりのリズムを取った。
会議室に通されて、既に三十分が過ぎていた。
深呼吸を繰り返し、いら立ちを静めた。
「日東テレビ」との取り引きを成立させられるか否かに、これからの南野の人生がかかっていた。