第七回
新堂冬樹Fuyuki Shindou
公園の前の路上に停車していた白のセレナの後部座席に、男性の肩を借りながら南野は乗り込んだ。
数十メートルの距離を歩いただけで、激しく息が上がっていた。
相変わらず、頭痛と悪心が続いている。
転倒して頭部を打った翌日に、あれだけ殴打されたのだから無理はない。
テレビ業界から引退するという覚書を書かせるのが目的ではなく、南野を痛めつけるのが目的だとわかった時点で、藤城(ふじしろ)黒幕説の可能性は消えた。
恐らく、自分に楯(たて)ついてきた南野に制裁を加えるために別所(べっしょ)が命じたに違いない。
だが、別所への報復は後回しだ。
「かかりつけの病院はありますか?」
男性が、振り返り訊ねてきた。
「六本木に……お願いします」
「もっと近い病院のほうが……」
「六本木じゃなければ……だめなんですっ」
力を振り絞り、南野は言った。
「……わかりました。六本木の、どのへんですか?」
「六本木交差点のあたりに……お願いします。大声を出して……すみません」
南野は行き先を告げると詫(わ)びた。
「いえ、気にしないでください。それだけの大声が出せれば、一安心です」
男性が微笑み、顔を正面に戻すと車を発進させた。
南野はヒップポケットから、スマートフォンを引き抜いた。
着信履歴を開き、横田の電話番号をタップした。
オカケニナッタデンワハ、デンゲンガハイッテイナイカ、デンパノトドカナイバショニアルタメ、カカリマセン。オカケニナッタデンワハ……。
南野は電話を切り、祈るような気分でリダイヤルキーをタップした。
ふたたび、コンピューターの合成音声が流れてきた。
スマートフォンのデジタル時計は、午後四時五十五分になっていた。