第七回
新堂冬樹Fuyuki Shindou
自分が一時の約束をすっぽかしたので、予定を早めて大学病院に引き渡してしまったのか?
心を支配する不吉な予感を打ち消すように、南野は「キャットハンド」の電話番号にかけた。
受話口から流れてくるコール音が、南野の鼓膜を冷え冷えと震わせた。
頼む……出てくれ……。
コール音が十回を超えても、つながらなかった。
頼む……。
南野の祈りも虚(むな)しく、コール音は鳴り続けていた。
南野は電話を切り、深呼吸した。
慌てても仕方がない。
いまの南野には、横田に会うしか術(すべ)はなかった。
座っているだけで、苦痛だった。
だが、横にはならなかった。
そのまま、起き上がれなくなってしまいそうな気がしたのだ。
パステルを救うまでは……。
不意に、口元が綻んだ。
微笑んだのではなく、自嘲だ。
こんな状態になってまで……やるべきことはほかに山積しているのに、一匹の子犬のもとに向かおうとしているなどどうかしている。
南野の掌(てのひら)の中で、スマートフォンが震えた。
ディスプレイに浮かぶ横田の名前に、南野は弾かれたようにスマートフォンを耳に当てた。
「もしもし!? 南野ですっ。パステルは、まだいますか!?」
南野が電話に出ると、一瞬、驚いた顔で男性が振り返った。
スマートフォンを持っていないと嘘を吐(つ)いていたので、男性のリアクションは当然だった。