よみもの・連載

永遠の犬

第七回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 自分が一時の約束をすっぽかしたので、予定を早めて大学病院に引き渡してしまったのか?
 心を支配する不吉な予感を打ち消すように、南野は「キャットハンド」の電話番号にかけた。
 受話口から流れてくるコール音が、南野の鼓膜を冷え冷えと震わせた。

 頼む……出てくれ……。

 コール音が十回を超えても、つながらなかった。
 
 頼む……。

 南野の祈りも虚(むな)しく、コール音は鳴り続けていた。
 南野は電話を切り、深呼吸した。
 慌てても仕方がない。
 いまの南野には、横田に会うしか術(すべ)はなかった。
 座っているだけで、苦痛だった。
 だが、横にはならなかった。
 そのまま、起き上がれなくなってしまいそうな気がしたのだ。
 パステルを救うまでは……。
 不意に、口元が綻んだ。
 微笑んだのではなく、自嘲だ。
 こんな状態になってまで……やるべきことはほかに山積しているのに、一匹の子犬のもとに向かおうとしているなどどうかしている。
 南野の掌(てのひら)の中で、スマートフォンが震えた。
 ディスプレイに浮かぶ横田の名前に、南野は弾かれたようにスマートフォンを耳に当てた。
「もしもし!? 南野ですっ。パステルは、まだいますか!?」
 南野が電話に出ると、一瞬、驚いた顔で男性が振り返った。
 スマートフォンを持っていないと嘘を吐(つ)いていたので、男性のリアクションは当然だった。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

Back number