よみもの・連載

永遠の犬

第七回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

『いままさに、引き渡すところでしたよ。一時にいらっしゃるのではなかったんですか? どうしたんですか?』
 横田が、平板な声音で訊ねてきた。
「いろいろと、トラブルがありまして……いま、向かっていますから、パステルを……」
 不意に激しい頭痛に襲われ、南野は言葉の続きを吞(の)み込んだ。
『どうしました? 具合でも悪いのですか?』
「いえ……大丈夫です。パステルを……大学病院には引き渡さないでください」
『わかりました。期限の五時を過ぎていますが、今回は特別にいいでしょう。一時間経過するごとに五千円の延長料金を頂きますが、よろしいですか?』
「お金はいくらでも払いますので……僕が行くまで待っていてください」
 一方的に告げると、南野は電話を切った。
 シートに凭(もた)れかかり、眼を閉じた。
「電話、持っていたんですか?」
 待ち構えていたように、男性が言った。
「すみませんでした……どうしても……行かなければならないところがありまして……」
 喋(しゃべ)るだけで、かなりの体力が奪われた。
「そうみたいですね。複雑な事情がありそうですから深入りはしませんが、用事が済んだら早く病院に行かれたほうがいいですよ。到着したら声をかけますから、少しでも休んでいてください」
「ありがとうございます……」
 横田に連絡が取れて張り詰めていた気が緩んだのか、南野は耐え難い睡魔に襲われた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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