よみもの・連載

永遠の犬

第七回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 パーティションを隔てた先は、五坪ほどの応接室になっていた。
 二脚のソファに挟まれたテーブルの上に、クレートが載っていた。
「この中にパステルちゃんがいます。ご確認ください」
 横田が、事務的な口調で南野を促した。
 南野はゆっくりと腰を屈めた。
 パステルが元気に吠(ほ)えながら、前脚でクレートの柵扉を引っ掻(か)き始めた。
「おいおい、騒ぐな」
 南野が柵扉を開けると、勢いよくパステルが飛び出してきた――条件反射で抱きとめた。
「おい、ちょ……待て……痛たたた……」
 パステルが南野の顔を舐(な)めてきた。
 柔らかな舌でも、内出血した箇所と裂傷に触れると耐え難い痛みが広がった。
「わかった、わかったから、落ち着いて……」
 南野はパステルを抱いたまま、尻餅をついた。
 それでもパステルは、頬、顎、首筋を舐め続けた。
「ご確認はよろしいですね?」
 横田が無表情に、南野からパステルを引き離しクレートに戻した。
「うちが動物保護施設でなくてよかったですね」
 横田が、南野の顔をしげしげとみつめつつ言った。
「え?」
 南野は腰を上げた。
「その顔を見たら、飼育資格がなしと判断されるということですよ。ま、ウチは引き取って貰(もら)えさえすればいいんですからね」
「飼育資格って……私も、貰い手がみつかるまで一時的に預かるだけですよ」
「ご自由にどうぞ。パステルちゃんの所有権は、南野さんにありますから。南野さんが到着したのは六時十分ですが十分はサービスしておきますので、一時間延長分の五千円を一週間以内にお振り込みください」
 横田が、恩着せがましく言った。
「わかりました」
「それからこれが、斎藤(さいとう)さんがパステルちゃんに与えていたドッグフードです。まだ、三分の二ほど残っています。餌は生後半年くらいまでは、三回から四回にわけてあげたほうが消化のためにいいみたいです。朝と昼の餌はあげてますので、家に戻ったら与えてください。分量の目安は、ドッグフードの袋の説明書きにあります。クレートも斎藤さんのものなので差し上げます。ほかの飼育用品はご自分で揃(そろ)えてください。パステルちゃんは生後三ヵ月で、因(ちな)みに体重は十一キロです。一週間後にワクチンの接種に連れて行ってください。それが終われば、散歩はOKですから。いまご説明したことは、あらためて後ほどメールしておきます。ほかに、ご質問はありますか?」
 横田は早口で説明すると南野に訊ねた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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