第七回
新堂冬樹Fuyuki Shindou
「先に、用件を言ってくれ」
南野は、聖に譲った。
『あなたからどうぞ。私のはただの報告だから』
「わかった。じゃあ、単刀直入に言うが、パステルを引き取ってほしい」
『パステル? ……ああ、斎藤のおじいちゃんから預かった子犬ちゃんね。引き取るって……もしかして、まだ、預かっているの?』
聖が、怪訝(けげん)そうに訊ねてきた。
「ああ、いま、家にいるよ」
『斎藤さん、具合でも悪いの?』
「亡くなったよ」
『え……』
聖が絶句した。
「あのあと、斎藤さんは入院することになって……まあ、話が長くなるから詳細は省くけど、そういうわけで、かなり迷惑しているんだ。もともとパステルを預かったのは君だし、責任を取ってくれ」
『たしかに、きっかけは私よね』
「いつ、迎えにこられる? 明日とかは……」
『明後日から、オーストラリアに行くの』
南野を遮り、聖が言った。
「オーストラリア!?」
南野は、素頓狂な声で繰り返した。
『うん、留学するの』
「留学って……そんな、急過ぎるだろ!?」
『急じゃないわ。あなたと出会った当時、私が通訳を目指していたこと覚えているでしょう? 結婚したから夢は諦めたけど、離婚するならもう一度、夢を追いかけたいなと思ったのよ。年も年だから楽な道じゃないのは覚悟の上よ。大学時代の友人がオーストラリアの旅行会社に勤めているから、とりあえず、彼女の家にホームステイしながらガイドでもやってみようと思ってさ』
あっけらかんとした口調で、聖が言った。
「そんな……パステルは、どうなるんだよ!?」
『あなたと、縁があったんじゃないかな』
聖の口調は、他人事のようだった。
「無責任過ぎるだろっ」
南野は思わず、声を荒らげた。