第八回
新堂冬樹Fuyuki Shindou
「え! なぜですか!?」
驚きの顔で、和樹が訊ねた。
「どうして、だめなんですか!? 理由を説明してください!」
真理も、血相を変えて問い詰めてきた。
「子犬より自分達の予定を優先させる方に、パステルはお譲りできません」
南野は、きっぱりと言った。
「結婚記念日だから仕方が……」
「お引き取りください」
南野は立ち上がり、事務的な口調で和樹の言葉を遮った。
「なによ、勝手な人ね! こんな人のところの犬なんて貰わないわ! 行こう!」
真理が南野に怒声を浴びせ、和樹の手を引き立ち上がらせると玄関に向かった。
南野はソファに座ったまま、眼を閉じた。
パステルの里親希望者を、どうして断った?
自問する声に、答えることができなかった。
一週間前の南野なら、喜んでパステルを引き渡したことだろう。
本当は、理由がわかっていた。
南野は眼を開け、首を巡らせた。
サークルの縁に前足をかけて後ろ足で立つパステルが、勢いよく尻尾を振りながら南野をみつめていた。
「ごめんな。僕には、やらなければならないことがあるんだ」
南野は、パステルに語りかけた。
いい人を、みつけてやるからな。
南野は、思いを込めてパステルをみつめた。