よみもの・連載

永遠の犬

第八回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「え! なぜですか!?」
 驚きの顔で、和樹が訊ねた。
「どうして、だめなんですか!? 理由を説明してください!」
 真理も、血相を変えて問い詰めてきた。
「子犬より自分達の予定を優先させる方に、パステルはお譲りできません」
 南野は、きっぱりと言った。
「結婚記念日だから仕方が……」
「お引き取りください」
 南野は立ち上がり、事務的な口調で和樹の言葉を遮った。
「なによ、勝手な人ね! こんな人のところの犬なんて貰わないわ! 行こう!」
 真理が南野に怒声を浴びせ、和樹の手を引き立ち上がらせると玄関に向かった。
 南野はソファに座ったまま、眼を閉じた。
 パステルの里親希望者を、どうして断った?
 自問する声に、答えることができなかった。
 一週間前の南野なら、喜んでパステルを引き渡したことだろう。
 本当は、理由がわかっていた。
 南野は眼を開け、首を巡らせた。
 サークルの縁に前足をかけて後ろ足で立つパステルが、勢いよく尻尾を振りながら南野をみつめていた。
「ごめんな。僕には、やらなければならないことがあるんだ」
 南野は、パステルに語りかけた。
 
 いい人を、みつけてやるからな。

 南野は、思いを込めてパステルをみつめた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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