よみもの・連載

永遠の犬

第八回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「まあ、どちらにしても私には犬を飼う余裕がないので、パステルのパートナーは三村さんにお任せします」
「後悔しませんか?」
 三村の顔から、それまで湛えられていた微笑みが消えた。
「三村さんみたいな犬好きで理解のある方が育ててくれるのに、後悔なんてしませんよ」
 南野は入れ替わるように、満面に笑みを湛えた。
「わかりました。喜んで、パステルちゃんのパートナーになりますよ。でも、明日までにもし気が変わったなら遠慮なしに言ってくださいね」
「いえ、その可能性はありませんので……」
「私にはパステルちゃん以外にもパートナー候補はいますけど、パステルちゃんには南野さんしかいませんから」
 南野を遮り、三村が言った。
「たとえそうだとしても、私が飼うことはないのでパステルをよろしくお願いします」
 南野は、脳内で囁(ささや)く声を打ち消すように三村に頭を下げた。
「パステル、じゃあ、おじさんの家にくるかい?」
 三村が語りかけると、パステルが腰を丸め排便を始めた。
 くるくる回りながら、そこここに糞(ふん)を落とした。
 排便が終わるとパステルはサークル内を猛然と駆け出し、狙ったように糞を踏みつけた。
「パステル、おとなしくしなさいっ」
 南野の声に、パステルが足を止めた。
「待ってろよ。いま、足を拭いて……あ、パステル!」
 パステルが踏み潰した糞の上に仰向けになり、左右に転がり背中を擦りつけていた。
「ちょ……やめなさい! なにをやってるんだ!」
 南野がサークルを跨(また)ぐと、パステルは待ってましたとばかりに跳ね起き、耳を後ろに倒して逃げ回り始めた。

 三村に嫌われてしまうから、いい子にしてくれ……。

 心でパステルに念を送りながら、南野はパステルのあとを追った。
 里親希望者にたいしての見栄えのために、サークルを広くしたことを後悔した。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

Back number