よみもの・連載

永遠の犬

第十一回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「はい。堂山正義は続編で名誉の死を遂げる……これが、近江明人の出した条件です」
 堂山正義の殉職は南野のアイディアだが、近江明人の口から出たことにしたほうが物事はうまく運ぶ。
『そんな結末にしたら、「刑事一直線」が終わってしまうじゃないか! 南野ちゃん、それはいくらなんでも無理だよ!』
「お気持ちはわかります。でも、その条件を呑(の)まないと近江明人は今後も続編のオファーを受けない……つまり、『刑事一直線』はシリーズ1で終わってしまうんですよ。どうせ終わるなら、続編で終わったほうがいいじゃないですか?」
 南野の正論が篠宮の胸を射抜いているだろうことは、受話口越しに伝わる荒い息遣いが証明していた。
『そりゃそうだけど……なあ、南野ちゃん。殉職以外の線でなんとか説得できないかな?』
 篠宮が、悲痛な声音で懇願してきた。
「それは無理です。殉職にするなら出演する、しないのなら出演しない、の二者択一ですから。篠宮さん。シーズン2で堂山正義が殉職しても、その気になれば新しい役者を立ててシーズン3ができるじゃないですか。もう一度言いますが、殉職の条件を却下すれば『刑事一直線』はシーズン1で終わってしまいます」
 南野は、突き放すように言った。
『「刑事一直線」の主役を、近江明人以外の役者にやらせられるわけないよ! 第一、そんなことしたら、近江明人が……』
「マネージャーが近江さんから許可を取っていることを確認しました。なので、シーズン3の制作に問題はありません」
 南野は篠宮を遮り言った。
 篠宮が沈黙した。
 十秒……二十秒……。
 荒い鼻息だけが聞こえた。
 三十秒が過ぎても、篠宮の逡巡(しゅんじゅん)は続いた。
「なにを躊躇(ためら)っているんですか! 篠宮さんは、食べ終わるのがもったいないからと最高級の料理に口をつけないで腐らせるつもりですか? 最高級の料理は最高に美味(おい)しい瞬間に頂くものだと思います! どうか、ご決断を!」
 南野は、迷い続ける篠宮に畳みかけるように言った。
 詭弁(きべん)ではなく、本音だった。
 食べずに腐らせるには、「刑事一直線」の続編という料理はもったいなさすぎる。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

Back number