第十一回
新堂冬樹Fuyuki Shindou
『わかった、任せよう』
押し殺した声で、篠宮が沈黙を破った。
「ありがとうご……」
『ただし、必ず近江明人を僕の前に連れてくるんだ!』
篠宮が、南野に最後まで言わせず、命じた。
「任せてください! 来月には、実現します。では、五時に『アカデミアプロ』に行ってきます。また、ご報告します」
南野が電話を切ると、間を置かずに着信が入った。
着信の主は、島内だった。
「南野です。もしかして、今日、ご都合が悪くなりましたか?」
折り返しかかってきた電話に脳裏を過(よぎ)った懸念を、南野は口にした。
『いえいえ、そうではありません。実は、夕方に南野さんと会うことを話しましたら、近江から同席させてほしいと言われまして』
「近江さんが同席!?」
思わず、南野は訊ね返した。
『ええ。制作会社の社長さんから、直接話を聞きたいのでしょう。大丈夫ですか? もし日程を変えたほうがいいなら……』
「いえ。今日で構いません! 愉(たの)しみにしていますと、近江さんにお伝えください。では、後ほど」
電話を切った南野は、逸(はや)る気持ちを抑えきれずに玉川通りを駆け出していた。
自宅まで、あと数十メートルだ。
近江明人がわざわざ乗り出してくるとは、続編の出演に乗り気な証拠だ。
玉川通りを左に曲がり、住宅街に入った。
十数メートル先……自宅の前に見覚えのあるエルグランドが停まっていた。
「突然、ご自宅に押しかけてすみません」
南野が近づくと、エルグランドから三村が降りてきた。
「どうしました? 御用なら、電話をかけてくださればよかったのに」
「電話では無理なお願い事がありまして……」
三村が言い淀(よど)んだ。
「立ち話もなんですから、中へどうぞ」
南野は三村を自宅に促した。
いまは午後二時半を回ったばかりだ。
「アカデミアプロ」の事務所は青山なので、四時半に家を出れば間に合う。