よみもの・連載

永遠の犬

第十一回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

                  ☆
「パステルは、二階の『入院室』にいます」
 先導する三村に続き、南野はエレベーターに乗った。
 エレベーターの扉が開くと、三方の壁を埋め尽くすステンレス製のケージが視界を占領した。
 トイプードルが三頭、チワワが二頭、ミニチュアダックスが二頭、パピヨンが一頭、ビーグルが一頭……入院ケージには様々な犬種がいたが、一様に覇気のない不安な表情をしていた。
 ケージにパステルの姿は見当たらなかった。
「ずいぶん、狭いケージですね。『入院室』と言うから、もっと広々としたところをイメージしていました。窮屈でかわいそうじゃないですか?」
 南野は、入院ケージを見渡しながら率直な感想を口にした。
「病気や怪我をしている子達には安静が必要なので、あえて余分なスペースは作らないようにしているのです。点滴や輸血のときに動き回られたら針が外れますしね」
 白衣を着た南野と同年代と思しき男性が、笑顔で歩み寄ってきた。
「こちら、獣医師の山岡(やまおか)さんです。先生、こちらが元のパステルの飼い主だった南野さんです」
 三村が、南野と獣医師に双方を紹介した。
「南野です。失礼なことを言ってすみません」
 南野は軽率な発言を詫(わ)びた。
「いえいえ、いいんですよ。初めて『入院室』に足を踏み入れた方は、みなさん、南野さんと同じようなリアクションをなさいます」
 獣医師が笑顔で言った。
「先生、南野さんは匂いがついた物より本人のほうがいいだろうということで、わざわざきてくださいました」
「それは助かります。パステルちゃんも喜ぶと思います。パステルちゃんはこちらのケージにいますので、どうぞ」
 三村が経緯を説明すると、獣医師が南野を奥のフロアに促した。
「パステルは、食べてくれますかね?」
 歩きながら、三村が獣医師に訊ねた。
「かなり衰弱していますから、あまり期待しないほうがいいかもしれません。今日も何度かボウルを置いてみましたが、見向きもせずに寝ていましたからね。パステルちゃんは、一番奥の下段のケージです」
 獣医師が三村から南野に視線を移し、壁沿いの入院ケージを指差した。 

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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