よみもの・連載

永遠の犬

第十一回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 柵越し……点滴の管に繋(つな)がれたパステルが背中を向けて寝ていた。
 いや、寝ているというよりもぐったりしている感じだ。
 痛々しく浮く背骨と肋骨(ろっこつ)……僅か一週間前までコロコロしていたパステルの身体は、別犬のように痩せ細っていた。
 不意に涙が込み上げた。
 三村の車から命懸けで脱走したパステルを、南野は受け入れなかった。
 パステルは深く傷つき、絶望したのだろうか?
「ちょうど点滴が終わったところです。いま、外しますね」
 獣医師が入院ケージの扉を開けて点滴の管を外しているときも、パステルは背を向け丸まったままでピクリともしなかった。
「パステル、お前の大好きな人を連れてきたぞ」
 三村が声をかけても、反応がなかった。
 微(かす)かに脇腹が上下しているのを見なければ、死んでしまったのではないかと不安になってしまう。
「南野さん、ここにきてパステルに声をかけてあげてください」
 入院ケージの前に屈(かが)んでいた三村が、隣に視線をやりながら南野を促した。
 南野は三村の横に腰を屈めた。
 相変わらずパステルは、身じろぎ一つしなかった。
 間近で見ると、痩せているだけではなく毛艶も悪かった。
 口をついて出そうになる嗚咽(おえつ)を、南野は堪(こら)えた。
「パステル……」
 南野が名前を呼ぶと、パステルの耳がピクリと動いた。
「僕だよ、パステル」
 一度目より大きくパステルの耳が動き、続いて頭を上げた。
 微かに、尻尾(しっぽ)が左右に動き始めた。
「先生! パステルが動きましたよ!」
 三村が興奮気味に言った。
「驚きましたね」
 獣医師も、言葉通り驚いているようだった。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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