よみもの・連載

永遠の犬

第十一回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 鼻をヒクヒクさせているパステルを、南野は祈るような瞳でみつめた。
 三村も、緊張の面持ちでパステルを凝視していた。
 しばらく匂いを嗅いでいたパステルが、ドッグフードを舌先で舐(な)めた。
 二度、三度と舐めていたパステルが、ついにドッグフードを口に入れた。
「食べた!」
 三村が涙声で叫んだ。
「偉いぞ……パステル……」
 南野は嗚咽交じりに言いながら、新たに三粒を掌に載せた。
 今度はすぐに、パステルはドッグフードに食いつき咀嚼(そしゃく)した。
「よしよし、その調子だ……早く、コロコロのお前に戻ってくれ」
 南野はもう片方の手でパステルの背中を撫(な)でながら、今度は六粒のドッグフードを差し出した。
 すかさず、パステルが完食した。
「こういうこと、あるんですね」
 獣医師が呟(つぶや)いた。
「ありがとう……ありがとうな……」
 南野がパステルの顔を両手で包むと、弱々しく唇を舐めてきた。
「私を無視して、南野さんには一発で反応するなんて……もう、パステルのことを嫌いになりました。だから、パステルはお返しします」
 唐突に三村は言うと、腰を上げた。
「三村さん……」
「では、そういうことで私は失礼しますよ」
 三村が片目を瞑(つむ)り、踵(きびす)を返すとフロアを出た。
「私も、パステルちゃんのためにはそのほうがいいと思います」
 にこやかな顔で、獣医師が言った。
 南野はパステルに視線を戻した。
「本当に、強情な奴だ。でも、お前には負けたよ」
 すっかり変わり果てたパステルに、南野は泣き笑いの顔で語りかけた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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