第十二回
新堂冬樹Fuyuki Shindou
ドッグフードを食べたパステルが南野(みなみの)の腕の中で眠り始めて、十五分が過ぎた。
パステルの浮いた肋骨(ろっこつ)が上下しているのを見ていると胸が痛んだ。
「南野さんと会えて、安心したのでしょうね」
入院ケージの前の丸椅子に座る南野に獣医師……山岡(やまおか)が微笑(ほほえ)みながら言った。
自分のために衰弱するまでドッグフードを口にしなかったパステルに、南野は驚きを隠せなかった。
「どうしてお前はそんなに……」
僕を愛してくれるんだ?
呑(の)み込んだ言葉の続き……南野は心でパステルに問いかけた。
手術の練習台として大学病院に引き渡されそうになっていたパステルを預かったのは事実だが、特別に愛情をかけていたわけではなかった。
むしろ、仕事の支障になると厄介者扱いしていた。
現に、一日でも早く引き取り手を探すことに躍起になっていた。
パステルと過ごす日々を重ねるうちに情が移ったのはたしかだが、その程度の愛情は動物好きなら誰でも持っている。
なのになぜ、パステルは……。
「飼い主と犬は、ときとして奇跡の絆(きずな)で結ばれているそうです」
南野の心を読んだように、唐突に山岡が言った。
「奇跡の絆?」
南野は繰り返しながら、山岡に視線を移した。
「ええ。実は、私の姉がアニマルコミュニケーターをやっていましてね」
「アニマルコミュニケーターってなんですか?」
「平たく言えば、亡くなったペットの魂と交信して飼い主に思いを伝えるという仕事です」
「そんな仕事があるんですね……というか、そんなことができるんですか?」
南野は、率直な疑問を口にした。