よみもの・連載

永遠の犬

第十二回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「さあ、私とはまったく別世界の話ですから。本来、獣医師という仕事柄、非科学的な話はしないのですが、今日のパステルちゃんを見ているとつい……すみませんでした」
 山岡が苦笑した。
「いえ、僕も神とか死後の世界とかは信じないタイプです。でも、パステルと出会ってから、なにか目に見えない力のようなものがあるかもしれない、と感じ始めるようになりました。ところで、奇跡の絆ってなんですか?」
 南野は話を戻して訊(たず)ねた。
「姉が言うには、飼い主とペットは偶然に出会ったのではなく前世からの繋(つな)がりがあるそうです。姉が過去に、北海道在住のある飼い主の亡くなった柴犬(しばいぬ)の魂と交信したときの話をしますね。その柴犬の前世は、五十年前にドイツで四十歳代の男性に飼われていたシェパードでした。男性とシェパードは親子のように仲睦(なかむつ)まじく、片時も離れることはありませんでした。ある日、いつものように男性が自宅の庭でシェパードとボール遊びをしているときのことでした。男性の投げたボールが通りに転がり、それを追ったシェパードは車に撥(は)ねられて亡くなりました。男性は自分がパートナーを殺してしまったとひどく落ち込み、抜け殻のようになりました。その後の男性は、心身を患いシェパードのあとを追うようにして亡くなりました。犬は亡くなったあとは魂となり、飼い主のそばで見守っています。シェパードは自分の死後、大好きな飼い主が罪悪感に苛(さいな)まれながら不幸な余生を送ったことを哀(かな)しく思い、来世でも男性のもとに生まれ変わると誓いました。あくまでも、姉から聞かされた話ですけれどね」
 山岡が、最後に笑顔でつけ加えた。
「シェパードが柴犬に生まれ変わったのは、また、飼い主と一緒にいたいからですか?」
 すかさず、南野は訊ねていた。
 山岡の姉の話に、引き込まれている自分がいた。
「姉が言うには、今度は飼い主が幸福な人生を送ることができるようにするためだそうです」
「そんなこと、犬にできるんですか?」
 言った端から、南野は後悔した。
 死後の世界を信じるとか信じないの話以前に、少なくとも獣医師にたいしてする質問ではない。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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