よみもの・連載

永遠の犬

第十二回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「いえ、軽蔑なんてそんな……ただ、そういう経験を数多くしていると、死にも慣れるものなのかなとは思いました」
 南野は、率直な思いを口にした。
「慣れませんよ」
 すかさず、山岡が答えた。
「え? でも……」
「たしかに、涙を流すことはなくなったと言いました。正確には、流さないように努力しているうちに流れなくなった、という感じですかね」
「涙を流さないように努力したとは、どういう意味ですか?」
「ペットが亡くなって一番哀しんでいるのは飼い主さんです。私達が取り乱せば、彼らの哀しみに拍車をかけてしまいます。妙な言いかたになりますが、最愛のパートナーとの最期のひとときは、純粋に哀しみに集中させてあげたいんです」
「なんだか、わかるような気がします」
 南野は、話を合わせたわけではなかった。
 たしかに山岡の言う通り、自分の親や兄弟が亡くなったときに立ち会った医師が泣いていたら複雑な気分になってしまうかもしれない。
 純粋に哀しみに集中させてあげたいという山岡の言葉に、南野は深い優しさを感じた。
「死んだら灰になるだけ。跡形もなく消えてしまう」
 唐突に、山岡が言った。
「え?」
「死後の世界なんて作り話だという考えの人も大勢います。そういう人に、愛犬の姿は見えなくてもずっとそばにいますとか、いつの日か生まれ変わった愛犬と再会できますなんて軽々しく言えません。たとえ私が、姉のように魂の存在や輪廻転生を信じていたとしてもです。それは励ましでも慰めでも、ましてや共感でもなく、自分の価値観や考えを押しつけているだけです。もっと言えば、長年連れ添ったパートナーに旅立たれ哀しみに暮れる飼い主さんにたいして私達は、励ますことも慰めることも共感することもできません。それができると思うのは、単なるエゴです。唯一できることがあるなら、ただ寄り添うことだけです」
 動物愛護を声高に訴える人達よりも、山岡の言葉のほうが南野の胸に刺さった。
「あ、調子に乗っていろいろと喋(しゃべ)り過ぎましたね。お時間は大丈夫ですか?」
 苦笑いしながら、山岡が訊ねてきた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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