よみもの・連載

永遠の犬

第十二回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 南野は壁掛け時計に視線を移した。
 午後四時十五分。
 四時半までにタクシーに乗れば、待ち合わせの五時には青山の「アカデミアプロ」に到着するはずだ。
「では、そろそろ行きます。八時までには迎えにこられると思いますが、夜間でも大丈夫ですか?」
 南野は訊ねつつ、そっとパステルを山岡に渡した。
「ええ、ウチは二十四時間体制ですから。夜勤の獣医師に引き継いでおきますね」
 山岡がパステルを入院ケージに戻しながら言った。
「よろしくお願いします。あ、そうそう、今夜は、もう食事は与えないほうがいいですよね?」
 南野はエレベーターに向かいかけた足を止め、思い出したように山岡に確認した。
「はい、今夜はもう……」
 山岡が言葉を切り、入院ケージの扉を開けた。
 パステルが震える四肢を踏ん張り、背中を波打たせていた。
 シートに、消化しきれていない食べたばかりのドッグフードが吐瀉(としゃ)されていた。
「パステルっ、どうした!?」
 南野は入院ケージに駆け寄った。
「久しぶりにドッグフードを食べてすぐに寝たので、消化器が機能しなかったのでしょう」
 山岡が、パステルの背を擦(さす)りつつ言った。
 二度、三度と、パステルが嘔吐(おうと)した。
 もう、シートには黄白色の胃液しか出ていなかった。
 パステルは四肢を震わせ、苦しげにしていた。
「先生、パステルは大丈夫ですよね!?」
 南野は、山岡に縋(すが)るような瞳を向けた。
「ええ、嘔吐がおさまれば点滴を打ちます。なにかありましたら、ご連絡を入れますので」
 ようやく嘔吐がおさまったパステルが、力なく蹲(うずくま)った。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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