よみもの・連載

永遠の犬

第十五回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 南野(みなみの)がドアを開けた瞬間、デスクワークをしていたADの三橋加奈(みはしかな)とプロデューサーの吉永(よしなが)が驚いて表情を強張(こわば)らせた。
「港南(こうなん)制作」の事務所を訪れたのは、約二ヵ月半ぶりだった。
 アポイントなしでいきなり現れた南野に、彼らが動揺するのも無理はなかった。
「あ……お疲れ様です。南野社長、今日は……」
「藤城(ふじしろ)はいるか?」
 慌てて立ち上がり近づいてきた吉永を遮り、南野は訊(たず)ねた。
「はい。いらっしゃいますけど、いま、打ち合わせ中です。あの、専務にアポイントは……」
「俺はまだ社長のはずだが? 専務と会うのに、いちいちアポイントを取る必要があるのか?」
「あ、いえ……そういう意味ではないのですが……」  
 しどろもどろになる吉永を押し退け、南野は応接室に向かった――ノックをせずに、ドアを開けた。
 応接ソファで向き合っていた藤城とチーフプロデューサーの黒岩(くろいわ)が、ほとんど同時に南野に顔を向けた。
 テーブルの上には、「刑事一直線」の企画書が載っていた。
「南野さん、ご無沙汰しています」
 黒岩が立ち上がり、南野に頭を下げた。
「もう社長と呼ぶ必要はないってことか?」
「え? いえ……それは……」
 黒岩が困惑した表情で、言葉に詰まった。
「南野、そういじめないでやってくれ。突然、お前が現れたからびっくりしただけだよ。悪いけど、席を外してくれないか」
 藤城が南野から黒岩に視線を移した。
「失礼します」
 黒岩が退室すると、南野は藤城の正面のソファに腰を下ろした。
「そろそろ、くる頃だと思ったよ」
 藤城が、笑顔で言った。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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