よみもの・連載

永遠の犬

第十七回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「素敵なお部屋ですね」
 リビングに足を踏み入れた奏(かなで)が、オフホワイトの家具で統一された室内に視線を巡らせた。
「パステルがきてから、ボロボロですよ。こことか、こことか」
 南野(みなみの)は、パステルが齧(かじ)った白革のソファの脚の傷やサイドボードのペンキが剥がれた箇所を指差した。
「ワンニャンの飼い主あるあるですよね。かわいい我が子の元気な証だと思って、喜びましょう」
 奏が明るく言いながら破顔した。
 パステルは、来客がよほど嬉(うれ)しいのか奏の足元でウサギのように飛び跳ねていた。
「たしかに、そうですよね。座っててください。コーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」
「ありがとうございます。コーヒーも紅茶も好きですけど、家を出る前に飲んできたばかりなので大丈夫です。これもありますから」
 ソファに腰を下ろした奏が、トートバッグから取り出したミネラルウォーターのペットボトルを掲げて見せた。
 南野は、奏の飾らない性格に好印象を抱いていた。
「じゃあ、僕も簡素に」
 南野は、テーブルに載った飲みかけのコーヒーが入ったマグカップを手にして微笑(ほほえ)んだ。
「ガーデニングをされていたんですか?」
 空のプランターが転がる中庭に視線をやりながら、奏が訊(たず)ねてきた。
 敷き詰められた人工芝も手入れをしていないので、落ち葉や泥で汚れていた。
「ああ……妻の趣味です」
「南野さん、結婚していたのですね!」
 奏が、驚いた表情で言った。
「僕をいくつだと思っています? 三十五歳ですよ。白井(しらい)さんとは、一回りくらい違いますから」
 南野は、苦笑いした。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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