よみもの・連載

永遠の犬

第二章 第三回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「わかった。奏ちゃんの言う通りにするよ。だけど気がかりなのは、引き取り手が現れるかどうかだね。小型犬ならまだしも、マスチフの成犬の里親希望者はそう簡単にみつからないんじゃないかな」
「私のペットショップ時代の知り合いに、保護犬施設をやっている方がいます。そこの施設には秋田犬やグレートデンもいて、大型犬の扱いに慣れているんです。引き取って貰う前に、訓練所に出さなければいけませんけどね」
「それなら安心だな」
 南野は言葉とは裏腹に、複雑な心境だった。
 危害を加えたマスチフの引き取り先は目途が立ちそうでも、パステルの手術は終わっていないのだ。
 いままでの奏とのやり取りは、あくまでもパステルの身になにもなければという前提での話だ。
 パステルにもしものことがあったら、自分は飼い主とマスチフを許せるだろうか?
 南野は頭を振り、ネガティヴな感情を打ち消した。
「どうしました?」
 心配そうに、奏が訊ねてきた。
「いや、なんでもない。それより、時間は大丈夫なの?  パステルは全身麻酔してから傷口の縫合になるので、二時間はかかるそうだ」
 パステルが手術室に入って約三十分。獣医師の話では、麻酔の準備や導入に三十分から一時間はかかるらしい。
「私がいたほうが心強いですよね?」
「正直、いろんな意味で助かるよ」
「素直ですね。いつもそうだと助かります」
 奏が冗談めかして言うと微笑んだ。
 彼女は、少しでも南野の気持ちを軽くしようとしてくれているのだ。
「私、社長についてきてよかったです」
 唐突に、奏が言った。
「どうしたの? 急に? 」
「茶太郎を命がけで救ってくれたし、私を励ましてくれた。そして、パステルに大怪我をさせた犬の殺処分を心配している。こんなに優しい人のもとで働けて、私は幸せです」
 奏が、噛み締めるように言うと南野に微笑んだ。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

Back number