よみもの・連載

永遠の犬

第二章 第三回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

                  ☆

「飼い主さんをお連れしました」
 看護師は言うと、診療室のドアを開けた。
「お座りください」
 デスクチェアに座る青い術衣を着た獣医師が、南野と奏を丸椅子に促した。
「先生っ、パステルの手術はどうでしたか!?」
 南野は腰を下ろしながら訊ねた。
「手術は、無事に成功しました。骨にも内臓にも損傷はなく、傷口を二十五針縫合しました。パステルちゃんはあと二、三十分もすれば麻酔から覚めますが、フラついたりして危ないので半日入院をお勧めします。夕方五時以降であれば、連れて帰っても大丈夫だと思います」
「ありがとうございます! 」
 南野は獣医師に深々と頭を下げた。
「社長、よかったですね!」
 奏が満面の笑みで言った。
「あの、パトロール……いや、散歩なんかはいつ頃からできますか?」
 南野は、弾んだ声で訊ねた。
 パステルのことだ、家に帰ったら、すぐにパトロールを催促するに違いない。
 だが、無理をさせて傷口が悪化したら元も子もない。
「一週間後に問題なければ抜糸できますので、それ以降なら散歩できます。軽く近所を歩く程度ならば、三、四日経てば抜糸前でも大丈夫ですよ。ただ、ほかにお話ししなければならないことがあります」
 獣医師の改まった口調に、南野の胸に不吉な予感が広がった。
「悪いことですか?」
 南野は、恐る恐る訊ねた。
「まずは、こちらを見てください」
 獣医師が、シャウカステンに留められたレントゲン画像に視線を移した。
「これは、パステルちゃんのCT画像です。内臓に損傷がないかを調べるために撮ったものですが、ここの灰色っぽい影が見えますか?」 
 獣医師がCT画像をペンの先端で指した。
 ペンの先端──CT画像には、獣医師の言うように灰色の塊のようなものが写っていた。
「はい。それは、なんですか?」
 訊ねながら、南野はとてつもない胸騒ぎに襲われていた。
「ここは膀胱(ぼうこう)なのですが、恐らく腫瘍だと思われます」
 獣医師の言葉に、南野の思考が停止した。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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