よみもの・連載

永遠の犬

第二章 第三回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「しゅ、腫瘍って……癌(がん)のことですか?」
 南野は、掠(かす)れた声で訊ねた。
「いえ、癌と決まったわけではありません。良性の腫瘍の可能性もあります。ただ、この画像で見るかぎり腫瘍はかなりの大きさです。一般的な例で言えば、良性でこれだけ大きな腫瘍は考えづらいです。現状では移行上皮癌(いこうじょうひがん)が疑われます」
「移行上皮癌?」
 南野は、聞き慣れない病名を震える声で繰り返した。
「膀胱癌の一種で、犬の癌の中では発生率が二パーセントにも満たない悪性腫瘍です」
「悪性腫瘍……」
 南野は、言葉の続きを失った。
 脳内が白く染まり、一切の思考が停止した。
 
 あなた、どうしたの?

 聖(ひじり)の声がした。
 
 おい、南野。

 藤城(ふじしろ)の声がした。
 
 社長? 社長?

 誰かの声がした。

 幻聴──聖も藤城もここにいるわけがない。
「社長? 社長!?」
 幻聴は消えなかった。
「社長っ、しっかりしてください!」
 身体が揺れた。
 南野の視界に、心配そうな奏の顔が現れた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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