よみもの・連載

永遠の犬

第二章 第三回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「パステルちゃんが悪性リンパ腫だった場合、抗癌剤治療をすることで寛解を目指します」
「つまり、完治ですね!?」
 すかさず、南野は言った。
「いえ、寛解は完治とは違います。検査によって腫瘍が見えなくなる状態を寛解と言います」
 獣医師が、南野の言葉を否定した。
「腫瘍がなくなるんだから、完治じゃないですか」
 南野は、怪訝(けげん)な顔で言った。
「寛解とは腫瘍がなくなるのではなく、抗癌剤治療で一時的に見えなくなることを言います。見えなくなっても、癌細胞は潜んでいます。なので、いつかは必ず再発します。早い場合で一週間、遅くて一年から二年で悪性リンパ腫は再発します」
 獣医師が、静かな口調ながら断言した。
「先生は、パステルの病気を治す気はないんですか!」
 南野は思わず大声で獣医師を問い詰めた。
「社長……」
 奏が南野の腕に手を置き、ゆっくりと頷いた。
 落ち着いて、大丈夫だから……奏の瞳は、そう語っているようだった。 
「南野さん。いまから、パステルちゃんのために大切なお話をしますので冷静に聞いてください。これからパステルちゃんが各種検査を受けて悪性リンパ腫だと特定されれば、腫瘍の大きさや転移具合からしてかぎりなくステージ5に近いステージ4に相当します。つまり、末期の癌です」
「末期の癌……」
 南野は、末期癌という言葉の衝撃に二の句が継げなかった。
「そんな……マスチフに咬まれるまでパステルちゃんは元気だったんですよ!? 何キロも歩いて、ウチの茶太郎とじゃれ合って……末期の癌だったら、社長が異変に気づいているはずですっ」
 奏が、悲痛な声で訴えた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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