よみもの・連載

永遠の犬

第二章 第五回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

 アラームが鳴る前に目覚めた南野(みなみの)は、ベッドに横になったまま枕元に置いていたスマートフォンのデジタル時計を見た。
 AM6:55
 アラームをセットした時間の五分前だった。
 昨日、病院から戻ってきた南野は、いつも以上にパステルのそばにいるようにした。
 容態が急変することを心配していたのもあったが、無意識にパステルに残された時間を考えていた。
 もし、黒崎(くろさき)獣医師の言う通りなら長くても二年……。
 南野は頭を振り、ネガティヴな思考を打ち消した。

 ――社長の望みを叶(かな)えるのが、パステルちゃんの一番の喜びです。たとえどんなに副作用がつらくても、大好きな社長と一緒にいられることがパステルちゃんにとっての幸せなんです。

 奏(かなで)の言葉に背を押され、積極的治療を行うと決めたではないか?
 自分が迷っていたら、パステルが混乱してしまう。
 弱気になる自分を、南野は叱咤(しった)した。
 今日は、パステルの一回目の抗癌剤(こうがんざい)投与の日だ。
 予約は九時からで、まずは抗癌剤治療を受けられるかどうかの血液検査を行う。
 検査結果と体調に問題がなければ、午後一時から抗癌剤を投与する。
 パステルの容態に異変がない場合、夕方には家に連れて帰れることになっていた。
「朝ご飯を作ってあげないとな。病魔と闘うにも体力が必要だ」
 南野はベッドから下り、パステルのケージのあるリビングルームに向かった。
「おはよう!」
 明るく言いながらリビングルームに入った南野は、足を止めた。
 いつもなら、早く出せとでもいうように縦長のケージの中を行ったり来たりしているパステルが身体(からだ)を丸めて蹲(うずくま)っていた。
「どうした? 昨日の検査で疲れたか?」
 南野がケージに歩み寄り声をかけると、パステルはゆっくりと首を擡(もた)げた。
 気のせいか、パステルの表情に覇気がなかった。
 瞳にいつもの輝きがなく、鼻も乾いていた。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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