よみもの・連載

永遠の犬

第二章 第六回

新堂冬樹Fuyuki Shindou

「この食べっぷりを見ていると、とても病気だとは思えませんね」
 アシスタントの棚橋(たなはし)が、ステンレスボウルに顔を突っ込み勢いよくドッグフードを食べるパステルの背中を撫(な)でながら眼を細めた。
 南野(みなみの)はデスクチェアに座り、メールチェックをしていた。
 半年前に制作したドッグフードのCMの評判がよく、「アニマルスターダム」にオファーが殺到していた。
「社長、最近の医学は凄(すご)いんですね。この身体(からだ)つきは、抗癌剤(こうがんざい)治療を受けているワンコには見えませんよ」
 照明係の須崎(すざき)が、パステルを凝視しながら南野に言った。
「正直、僕も驚いているよ。あまりに順調過ぎて怖いくらいだ」
 南野はクライアントに返信していた手を止め、パステルに視線を移した。
 朝食を食べ終えたパステルが、南野に顔を向けた。
「なんだ、お土産つける癖はパピーの頃と変わらないな」
 南野はデスクチェアから腰を上げサークルの扉を開けると、パステルの口元に付着したドッグフードの滓(かす)をウエットティッシュで拭き取った。
 留守番させているときにパステルに異変があると怖いので、抗癌剤の副作用が出やすいと言われている投与後三日目あたりから事務所に連れてきていた。
 幸いなことにいまは撮影の仕事は入っておらずデスクワークが中心なので、パステルのそばにいてあげられる。
「港南(こうなん)制作」のときなら、こうはいかない。
「アニマルスターダム」は動物専門の制作プロダクションなので、事務所にサークル、ドッグフード、トイレシートなどが常備されており、パステルを連れてくるだけで済んだ。
 なにより、スタッフがみな動物好きであるのが助かった。
 たかが犬のために……と思うスタッフはいない。

プロフィール

新堂冬樹(しんどう・ふゆき) 小説家。実業家。映画監督。98年に『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。“黒新堂”と呼ばれる暗黒小説から、“白新堂”と呼ばれる純愛小説まで幅広い作風が特徴。『無闇地獄』『カリスマ』『悪の華』『忘れ雪』『黒い太陽』『枕女王』など、著書多数。芸能プロダクション「新堂プロ」も経営し、その活動は多岐にわたる。

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