連載
金四郎と九十郎
第一編 養子と実子 多田容子 Yoko Tada
 二枚目の博徒は応える。二人は軽い足取りで、寺の裏門から中へ入っていった。九十郎は、尽八と呼ばれた二枚目の顔に見覚えがあった。
 あの河原に、確かにいた──。
 死んだ徳之助の周りに集まった野次馬の中に、混じっていた顔だ。何となく目立つ面差しだったから、頭に残っている。また徳之助のことに心とらわれ、九十郎はうつむき加減で道を辿(たど)った。

 堀田家の屋敷近くまで戻った時──。
「おいっ」
 不意に声をかけられ、隣屋敷の塀へ目を遣ると、角に金四郎が立っていた。いや、金助の形(なり)だ。
「兄上……」
 困った顔はしたが、九十郎は何かちょうどよい気もして、金助がさっと踵(きびす)を返した後について歩き出した。
「徳之助は、唄の相弟子であったらしいな」
「はい」
「わしは、この一件には何かあると考えておる」
「左様でしたか。実は師匠の珠吉も、あの若旦那が身投げなどするとは信じられぬと申しております」
「徳之助について調べたら、どうも、ここのところ博打に手を出しておったようなのだ」
 博打と聞いた瞬間、九十郎の顔色が変わったのを、金助は見逃さなかった。
「何とした」
「つい先ほど博徒を見かけたのです。あの河原の野次馬の中にいた……」
「ほう」
「河原では、ちらりと見ただけでした。兄上が来られた時には、もう去っていました」
「今日はどこにおった」
「流啓寺(りゅうけいじ)の裏です。中へ入って行きました」
「なるほど、昔からよう賭場の開かれておる寺だ」
 金助は、その道の通ぶりを見せる。
「して、兄上はなぜ、このようなところへまで?」
「それだ。お前に頼みがある。流啓寺と当たりがついたゆえ、なおよいのだが、わしは今夜、賭場を探るつもりだ」
「あまり無茶はされないでくださいよ」
 苦笑する九十郎の助言を、金助はまるでとりあわぬ風に流して言った。
「お前にも、つき合って欲しい」
「は?」
「今年に入って、大店の若旦那が幾人も身投げしておる。そのうち三人が、賭場に出入りしておったと分かった」
「そうですか……それは、確かに気になりますが」
「だろう?」


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〈プロフィール〉
多田容子(ただ・ようこ)
1971年生まれ。京都大学経済学部卒業。99年、剣豪小説『双眼』でデビュー。柳生新陰流、小転中伝。2004年、兵庫県芸術奨励賞受賞。著書に『柳影』『月下妙剣』『柳生平定記』『諸刃の燕』『おばちゃんくノ一小笑組』シリーズ、『自分を生かす古武術の心得』『新陰流 サムライ 仕事術』などがある。
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