連載
金四郎と九十郎
第一編 養子と実子 多田容子 Yoko Tada
 金四郎も駒札を出す。
「半方(はんかた)ないか、半方ないか……丁半、駒そろいました。勝負!」
 出方が威勢よく言うと、ツボ振りが壺を開ける。
「四一(よいち)の半」
 盆に溜め息と笑いがこぼれた。
「勝ったぞ、金助」
 九十郎は素直に喜んだ。
「けっ、ようござんしたね」
 それから、三度続けて九十郎は勝った。
「よし、俺も同じ目に乗るぜ」
 金助は、悔しそうに言った。金助は一喜一憂しながらも、博徒達の仕草やひそひそ話に、鋭く耳目を据えている。その後、二度ほど負けたが、他はすべて勝ち、九十郎の前には駒が積み上がった。
「やるじゃねぇか、若旦那」
 言いながら、金助は九十郎に耳打ちした。
「あと二、三回賭けてくれ。もうちっとで手の内が見えそうだ」
 九十郎はそっとうなずき、駒を前へ出す。
「丁半、駒そろいました。勝負!」
 壺が開く。
「三三(さんぞろ)の丁」
「おう、やったやった」
 金助ははしゃいだ。思い切って賭けていた九十郎は、また駒をぐっと増やしている。
 その時──。
 ツボ振りが静かに座を立った。入れ替わりに、新しいツボ振りが現れる。金助は口を歪めた。
「まだやるぞ」
 九十郎は、それとなく声をかけ、金助の腹を探る。
「おう、やれやれ」
 金助は残念そうだったが、九十郎は燃えていた。今、出て来たツボ振りは、まさに先刻、寺の門前で見た二枚目の男、尽八である。見目がよく、きりりとした尽八は絵になった。
 ところが──。
 賽の目は、悪夢のように変わった。いきなり九十郎は負け出し、むきになって取り返そうとする度、駒を減らした。
「何でぇ、あんなに山ほどあったのによぉ」
 金助はがっかりして、唇を尖らせる。しばらくして、湿った顔で立とうとした二人に、若い三下の博徒が近づいてきた。
「もし」
「何でぇ」
 金助は不機嫌にあしらおうとする。
「見れば、ちいとお困りのようで」


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〈プロフィール〉
多田容子(ただ・ようこ)
1971年生まれ。京都大学経済学部卒業。99年、剣豪小説『双眼』でデビュー。柳生新陰流、小転中伝。2004年、兵庫県芸術奨励賞受賞。著書に『柳影』『月下妙剣』『柳生平定記』『諸刃の燕』『おばちゃんくノ一小笑組』シリーズ、『自分を生かす古武術の心得』『新陰流 サムライ 仕事術』などがある。
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