連載
金四郎と九十郎
第一編 養子と実子 多田容子 Yoko Tada
 三下は、妙に丁寧な物腰で九十郎にすり寄った。
「よかったら、いくらか駒をお回しいたしやしょうか」
「いや……もう金はない」
「大丈夫でございます。こちらで都合させてくだせえ。賭け事には、流れというものがござんすからね。そのうちまた、いい波が参ります」
 金助がうなずき、九十郎は駒の貸し出しを受けることにした。それから、一度は勝ったが、やはりあとは負けて、二人はすべてすってしまった。
「どうしたらいいんだ」
 九十郎は金助に泣きついた。
「どうって言われてもよぉ」
 二人のところに、再び三下がやってきた。
「また負けたよ」
 九十郎はうなだれる。
「そうですか。今宵はよくよく運がなかったようでござんすね。では、また日を改めてお越しくださいまし」
「ああ、そうしよう」
 気を取り直すように、九十郎は応えた。
「怪しむわけじゃござんせんが、一応、軽く証文だけ入れていってくださいますか」
 三下は、駒代三両の証文を九十郎に書かせた。
「すまないな」
「いいえ、浮き沈みはお互いさまでござんす」
 丁重に言って、三下は二人を寺から送り出した。



「イカサマだな」
 寺を出ると、暗い裏通りで金助は口を開いた。市松模様の袖を取って歩きながら、九十郎もうなずいた。
「勝たせて、乗せてから根こそぎ取る。よくある手だ。三両くれぇで済んで、まだましなとこだろ」
「商家の若旦那とは、まことに裕福なものなのですね」
「そりゃそうだ。武家なんぞ、年貢のあがりを急に増やすことはできねえが、商人は己の才覚次第だ」
「なるほど」
「しかし、参った。もうちっとでツボ振りの手口を見破れるとこだったんだが」
「代わって出たツボ振り、あれが、私の申した野次馬の男です」
「何」
 金助は目の色を変えた。
「それを早う申せ」


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〈プロフィール〉
多田容子(ただ・ようこ)
1971年生まれ。京都大学経済学部卒業。99年、剣豪小説『双眼』でデビュー。柳生新陰流、小転中伝。2004年、兵庫県芸術奨励賞受賞。著書に『柳影』『月下妙剣』『柳生平定記』『諸刃の燕』『おばちゃんくノ一小笑組』シリーズ、『自分を生かす古武術の心得』『新陰流 サムライ 仕事術』などがある。
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