連載
金四郎と九十郎
第三編 町の恋 後 多田容子 Yoko Tada
   一

 犬飼(いぬか)いの権六(ごんろく)は、町方の手で見事に召し捕られた。子分達も一網打尽にされている。
 奉行の遠山金四郎は、与力、同心に命じ、権六一味を二つの組に分けて吟味させた。一つは権六と主な子分衆、もう一つは分次(ぶんじ)など素人あがりの手伝いだ。大勢の素人達も一人ずつ取り調べる。
 同心の幾田半左衛門(いくたはんざえもん)は、博徒から一味に加わったという若い手先に、声を荒らげた。
「そんな言い訳は通用しねぇ! 盗みなんぞ、頼まれても断るのが当たり前だろうが」
「けど、旦那、強面(こわもて)の子分達に囲まれて、とっても嫌とは言えなかったんで」
 色の黒いその男は、細い身で石の床に正座し、懸命に言い訳をした。
「で、押し入ったのは何回だ」
 半左衛門は冷たい目を据える。
「山城屋で三軒目です」
「殺(あや)めた人数は?」
「誰も殺(や)っちゃいません。ちょっと何人か殴って、脅して……あとは、兄貴分に言われて金を運んだだけです」
「嘘をついても分かるぞ。他のやつらは、もう何人も観念して、有り体(ありてい)に白状しやがったんだからな」
 男は首をすくめて、うなずく。
「もちろん、嘘なんぞ申しやせん」
 半左衛門は、男の襟首を取って絞め上げた。
「もう一度、きく。本当に殺しはやってねぇんだな」
 いつもの実直な顔とは別人のような形相で、半左衛門は男をにらむ。
「ええ……いえ……」
「はっきりしねぇか!」
 半左衛門は、男を石の床へ押し倒した。男は萎(しお)れた声で応えた。
「すみません。萬屋(よろずや)に入(へえ)った時、手代(てだい)が騒ぎましたもんで……一人だけ……」
「得物(えもの)は?」
 半左衛門は腹の奥から響く声で、刺すように低く問う。
「匕首(あいくち)で……肩から思いっ切り斬りつけやした」
「てめぇ!」
 半左衛門は男の背を蹴(け)る。
 素人達は、念入りに調べると、各人がどのくらいの働きをしたかの差が明らかになってきた。玄人の子分並みに暴れ回った者もいれば、ただついていき、金を運んだだけの者もいる。


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〈プロフィール〉
多田容子(ただ・ようこ)
1971年生まれ。京都大学経済学部卒業。99年、剣豪小説『双眼』でデビュー。柳生新陰流、小転中伝。2004年、兵庫県芸術奨励賞受賞。著書に『柳影』『月下妙剣』『柳生平定記』『諸刃の燕』『おばちゃんくノ一小笑組』シリーズ、『自分を生かす古武術の心得』『新陰流 サムライ 仕事術』などがある。
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第三編 町の恋 後2
第三編 町の恋 後
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