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2016年新春座談会 安部龍太郎×諸田玲子×澤田瞳子
◆2016年新春座談会 安部龍太郎×諸田玲子×澤田瞳子◆  
諸田
せっかくお二人とお会いしたので、お話ししていいですか?
昨年末、テロがあったり、イスラム国とかのニュースを目の当たりにして、色々考えたんです。例えば私も信長の歴史を書いてて、比叡山の焼き討ちをしたり、2万人を屋長島・中江の城に入れて殺しちゃったりしてますよね。戦時中は、日本人も正しいことばかりしてきたわけではない。歴史を書いていると、人間って変わらないんだな、同じような愚かしいことを繰り返しているんだということをすごく感じます。だからこそ、歴史をもっと知らなきゃいけないんじゃないかと切実に感じているの。それなのに、大学で歴史や文学は排除されるとか、即戦力として役に立つものだけが大切にされる社会に怒りを覚えます。皆さんは、いかがですか?
安部
それは非常に大きなテーマでね、人間は全く変わらないよね。僕は人間の欠点の本質は、敵意とエゴイズムというものを制御できないことだと思う。だから、敵意があるから戦争が終わらないし、その最終形態が核兵器を山積みにした今の地球の状態だよね。自分が豊かになりたい、自分の家が豊かになりたいという、そのためには人を蹴落としてもいい、殺してもいいというのがエゴイズムの本質であって、そのためにドンドン環境破壊を起こしているし、最後は今さえ良ければと原発にいくわけだ。それを人間はどうやったら克服できるのかというのは、我々人類の最後のテーマじゃないかな。2000年以上人類は信仰によっても解決できなかったけれど、それでも最後は神仏に対する信仰によって、敵意とエゴイズムを克服するしかないと僕は思っています。
そう考えながら人物造形なんかもしているんだけど、答えはなかなか明確な形では見つからないですね。
諸田
私も歴史を書くことは現実に結び付いている、今の時代につながっていると感じています。むしろ現代を無視できないのが、歴史だと思うの。
澤田
今我々が歴史を見た時、終わっている過去だからこそ、関ヶ原の合戦も大坂の陣も勝敗が分かっているんですよね。
少し前のことになりますが、私が仕事のことなどで色々と思い悩んでいる時に、友人から連絡がありました。彼女の父親が末期がんで、週明けから緩和治療に入るため、話ができなくなるから今から会いに行くと。そんな彼女から今、トラブルに遭っているので弁護士を紹介してほしいと頼まれて、弁護士の友人に連絡したら、何とその友人は臨月で、来月には出産を控えていると言うんですよ。
その時、あぁ、今から亡くなっていく友人のお父さんがいて、生まれてくる命があって、すべてのものは流れていくんだなとふと思って。ということは、今の私の悩みは小さなものであって、大きな流れの中から見れば100年経ったら消えてしまうものなんだなと。だからこそ、逆説的ですが、今は一日一日一生懸命生きなきゃいけないし、過去の歴史も終わったことだと思ったらそれだけのことになってしまうので、1つ1つ大切に取り組まなきゃいけないんだなと、しみじみ思いました。
諸田
流れっていうのは常に感じますよね。それまでプツップツッと単独に歴史があるような感じがしていたのが、2〜3年前から全部つながっているんだっていうのを感じていて。1つのことが起こるには無数の原因がある。それが縄を編んでいくような感じで、次の歴史につながっていくわけです。
安部
そういう意識が背後にあることによって、作品を深くしていくんじゃないかな。だからこそイメージが湧くし、資料読んでいても気づくことがあるんだと思うんですよ。
諸田
ここ数年、小説を1つの時代だけでは書けなくなりました。主人公の後の時代か前の時代、何か必ず書き加えたりしてるの。そこで終わらない。
安部
それは諸田さんのお好きな系図につながりますね。
諸田
だから、私たち人間は小さなもので、小説書いていてもあと50年経ったら知っている人は誰もいないんだってことが、慰めでもあるし、寂しさでもあるし、でもそうやって歴史が続いていくということですよね。
安部
主人公のお父さんのことを調べないと主人公のことは分からないし、じゃあお父さんのことはそのまた両親……ってね。
諸田
いつまで経っても小説は終わらない。
安部
澤田さんがおっしゃったシステムだって同じだと思う。1つのシステムはなぜできたかっていうことと、それが崩壊してどんなシステムを生んだかっていうことは密接に繋がっているからね。
司会
最後に本年の出版予定などを教えてください。
安部
1月2日の午後9時からテレビ東京系新春時代劇で東山紀之さん主演「信長燃ゆ」が放映されます。僕も寺尾聰さんや萬田久子さんと共演していますので、ぜひご覧ください。
諸田
安部さん、俳優デビューされたんですね!
澤田
必ず拝見します。
安部
2月には『五峯の鷹』が文庫で出版されます。
集英社では『道誉と正成』『義貞の旗』と書きましたので、もう何作かを書いて、一挙に文庫を出そうという計画になっています。自分の『太平記』を完成させたいものだと思っております。
澤田
1月10日『ふたり女房』の文庫が刊行されます。夏ぐらいにデビュー作『孤鷹の天』のスピンオフの短編集を単行本で出ますし、集英社文庫『泣くな道真』の続編も楽しみにしていてください。
諸田
2015年12月に集英社文庫で『心がわり 狸穴あいあい坂』シリーズの3作目が出ました。このシリーズは長く続けていきたいですね。
春には時代ミステリーも刊行されますし、現在新聞連載中の「梅もどき」も秋には単行本になります。
あと、集英社文庫『四十八番目の忠臣』がテレビドラマ化されます。
「小説すばる」誌上では和泉式部を主人公にした物語「みれん失れん和泉式部」をスタートしました。
司会
平安物ですね。そういえば澤田さんも同誌で平安物を書かれると。
澤田
ええ。菅原道真の死後の世相を描く作品を連載する予定です。
司会
編集長
司会
集英社文庫編集長
江口 洋
本年も先生方のご活躍を楽しみにしております。




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〈プロフィール〉
安部龍太郎
1955年福岡県生まれ。図書館に勤務するかたわら、短編で日本全史を網羅した『血の日本史』で90年デビュー。2005年『天馬、翔ける』で第11回中山義秀文学賞を受賞。13年『等伯』で第148回直木賞を受賞。著書に『信長燃ゆ』『海神』『関ヶ原連判状』『恋七夜』ほか多数。
諸田玲子
静岡市生まれ。上智大学英文学科卒。1996年「眩惑」でデビュー。2003年『其の一日』で吉川英治文学新人賞を受賞。07年『奸婦にあらず』で新田次郎文学賞受賞。『あくじゃれ』『末世炎上』『昔日より』『月を吐く』『髭麻呂 王朝捕物控え』『恋縫』など平安から江戸まで幅広いジャンルの話題作を発表する気鋭。
澤田瞳子
1977年京都府生まれ。同志社大学大学院博士前期課程修了。専門は奈良仏教史。2011年デビュー作『狐鷹の天』で第17回中山義秀文学賞を最年少で受賞。12年『満つる月の如し 仏師・定朝』で第32回新田次郎文学賞と第2回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞。作品に『日輪の賦』『ふたり女房』ほか。
構成・戸高米友美
撮影・久保陽子
会場・天喜