よみもの

◆2017年新春座談会 田口俊樹×堂場瞬一×福田和代◆  
福田
田口さんが訳されたローリー・ロイ『彼女が家に帰るまで』(田口俊樹・不二淑子訳、集英社文庫)は、デトロイトの不況下のコミュニティが舞台でしたね。1958年の設定ですが。
田口
あれは、日本でいうところの昭和を懐かしむ、みたいな面白さに重点を置いていますね。
司会
この作家は、2014年に田口さんに訳していただいた『ベント・ロード』(田口俊樹訳、集英社文庫)で、2012年度エドガー賞処女長編賞を受賞しています。
堂場
アメリカの作家層ということを考えると、もっと若い人たちに出てきてほしいですね。スティーブン・キング、マイクル・コナリー、ジェフリー・ディーヴァーその他、ベテランは元気ですが、下の世代が育ってほしい。その意味でもジョン・ハートには期待したいところです。
田口
ベン・サンダーズ『アメリカン・ブラッド』(黒原敏行訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ)は面白かったですよ。ニュージーランド出身、1989年生まれの作家なんですが、地元を舞台にした三部作が話題になり、アメリカの出版社と契約を結んで、これが全米デビュー作らしいですね。
福田
私は青春ミステリー「さよなら、シリアルキラー」三部作の完結編、バリー・ライガ『ラスト・ウィンター・マーダー』(満園真木訳、創元推理文庫)が印象的でした。
堂場
あの三部作は、二作目で壁に投げつけてやろうかと思いましたけど(笑)。あの終わり方はないなあ。
福田
「つ・づ・く♡」って感じのラストでしたからね(笑)。私も二作目を読み終えて、「えーっ!」と叫びましたからわかります。でも、完結編がすぐに出たので許します(笑)。ライガの作品は、昨年末に続けてシリアルキラー三部作の番外編を集めた『運のいい日』(同上)も出ましたね。この三部作、ジャンルとしてはヤングアダルト小説で、「向こうの若者はこういう血まみれの作品でも読むんだ」と思いました。新人と言えば、これも田口さんの翻訳で、クリス・ホルム『殺し屋を殺せ』(田口俊樹訳、ハヤカワ文庫NV)もとても面白かったです。
堂場
同業者の殺し屋だけを標的とする主人公の殺し屋が、逆に殺し屋に狙われて対決していくという――今までにないパターンですね。
田口
気に入っていただけて嬉しいです。ホルムはファンタジー小説の三部作をものしたことはあるようなんですが、これがメジャーデビュー作≠ニいうことですね。
司会
アメリカのミステリー翻訳が充実する一方、北欧ミステリー・ブームも続いていますが、いかがですか。
福田
私は、アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ『熊と踊れ』上・下(ヘレンハルメ美穂・羽根由訳、ハヤカワ・ミステリ文庫)が2016年の翻訳ミステリー1位だと思います。スウェーデンの実在の事件をモデルにしていて、3人兄弟による銀行強盗を描いた作品です。
堂場
ルースルンドは犯罪実話作家≠ニでも言うべき人ですね。一人で書いた作品もありましたが、過去作はほとんどネタ元というべき人物との共著です。
福田
これまではベリエ・ヘルストレムとの共著で、「この面白さは、実際、どちらの功績が大きいのだろう」と思っていました。今回初めての人物と組んだので興味津々で読んだんですが、本当に面白かった。きっと、ルースルンドの語り口がうまいんだろうな、と。その語りに専念するため、取材担当の共著者をつけているんでしょうね。あと、正直「今さら銀行強盗なんか面白いの?」と最初は思っていたんですが(笑)、驚いたことにぐいぐい読まされてしまって。そこでもポイントが加算されました。
堂場
ノルウェーの作家、ジョー・ネスボ『ザ・サン 罪の息子』上・下(戸田裕之訳、集英社文庫)も出ましたね。続いて刊行された『その雪と血を』(鈴木恵訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ)も含めて彼の翻訳された作品は全部読んでいるんですが、手掛けるジャンルの幅も広くて、私は正直なかなか正体を掴みきれていないです。
福田
『ザ・サン』は、刑務所に収監されている主人公に対し、周囲の人間がみんな心を開いて打ち明け話をする――その刑務所内のヒーラー≠ニいう独特な存在に惹かれました。世界観もとても抒情的なので、日本でブレイクしないかな、と期待しているんですが。
司会
今年2月に来日が予定されています。来日にあわせて、ハリー・ホーレシリーズ最新刊『悪魔の星』(仮題・戸田裕之訳、集英社文庫)が2月に刊行されます。読者の皆さんもぜひ、楽しみにしていてください。
福田
2014年に翻訳が出た『ザ・バット 神話の殺人』(戸田裕之訳、集英社文庫)は「ハリー・ホーレ警部シリーズ」の第一作にあたる作品でしたね。『ザ・サン』は単発のようですが、これもぜひシリーズ化していってほしい、魅力的な作品です。


 2    次へ

 
〈プロフィール〉
田口 俊樹
(たぐち としき)
1950年奈良県生まれ。翻訳家。マルタの鷹協会会員。早稲田大学第一文学部卒業。劇団木馬座勤務の後、1977年、都立高校教員となる。教員生活を送りながら、1977年ミステリー翻訳を手がける。1989年から、翻訳学校「フェロー・アカデミー」講師。ローレンス・ブロックなど、英米ミステリーを主として翻訳している。『ベント・ロード』(ローリー・ロイ著・集英社文庫)、『チャイルド44』(トム・ロブ・スミス著 新潮文庫)など多数。翻訳ミステリー大賞シンジケートの発起人の一人。
堂場 瞬一
(どうば しゅんいち)
1963年茨城県生まれ。青山学院大学卒業。会社勤務のかたわら執筆した「8年」で第13回小説すばる新人賞受賞。スポーツ青春小説、警察小説の分野で活躍中。著書に『いつか白球は海へ』『検証捜査』『複合捜査』『共犯捜査』『解』『社長室の冬』など多数。
福田 和代
(ふくだ かずよ)
1967年兵庫県生まれ。神戸大学工学部卒業後、システムエンジニアとなる。2007年『ヴィズ・ゼロ』でデビュー。大型新人として一躍脚光を浴びる。著書に『TOKYO BLACKOUT』『怪物』『緑衣のメトセラ』『オーディンの鴉』『ハイ・アラート』『宇宙へ』『碧空のカノン』など。
司会/集英社文庫編集長
江口 洋
撮影/chihiro.
構成/宮田久文
会場/赤坂離宮 銀座店