よみもの

◆2017年新春座談会 田口俊樹×堂場瞬一×福田和代◆  
田口
北欧のシリーズ物といえば、先ほど名前の挙がった『特捜部Q』シリーズのオールスンもデンマークの作家ですね。2016年2月に日本公開された映画『特捜部Q キジ殺し』も良作だったと思います。
福田
2015年末の刊行ではありますが、北欧ミステリー・ブームの火付け役である『ミレニアム』の続編も出ましたね。原著者であるスウェーデンの作家、スティーグ・ラーソンは惜しくも亡くなっていますが、ダヴィド・ラーゲルクランツ『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』上・下(ヘレンハルメ美穂・羽根由訳、早川書房)が刊行されました。私はとても面白く読みました。
堂場
あれはプロジェクト化したという理解でいいんでしょうか。誰かが書いて引き継いでいく、というような。
田口
読んだ感想としては、うまくもっていったな、という気がしますね。終わり方も、次をつくることを前提にして終わっているという印象があります。北欧ミステリー・ブームに関して言えば、文化の違いについての新鮮な驚きを与えてくれますよね。英米小説あたりだと、私たちも既にある程度読んできたわけですし知っていることも多いんですが、北欧ものだと前提が違っていたりして面白いんです。数年前に『湿地』『緑衣の女』(柳沢由実子訳、創元推理文庫)が出たアーナルデュル・インドリダソンを読んでいると、探している失踪人がすぐ見つかるという前提で話が進んでいる。なぜだろうと思っていたら、アイスランドは人口約三十万人の国だと。そりゃ見つかるわ、と納得しました(笑)。
堂場
ノルウェーに引っ越してきた82歳のユダヤ人であり元スナイパーを主人公にしたデレク・B.ミラー『白夜の爺スナイパー』(加藤洋子訳、集英社文庫)を皮切りに、昨今刊行が続く世界的な「爺もの」ブームにも言及したいところですね(笑)。
福田
これ、自分のツイッターアカウントで紹介した時の反響がすごかったんです。高齢者を主人公にしたユーモアがいいですよね。
田口
原題のNorwegian by Night (夜にまぎれるノルウェー人)が『白夜の爺スナイパー』(笑)。実はけっこうシリアスな作品なんだけど、主人公は認知症を患っていて、オフビートなユーモアもある。こういう作品のタイトルってむずかしいと思うんですが、とにもかくにもキャッチーなタイトルですよね。。
堂場
このインパクトは英断でしたね。「爺もの」としては、2014年から2015年にかけて、アメリカからダニエル・フリードマン『もう年はとれない』『もう過去はいらない』(野口百合子訳、創元推理文庫)も出ていましたね。
田口
こちらもユダヤ人の爺さんの話ですね。元殺人課刑事の主人公ですが、第一作で87歳だったのが続編だと88歳になっているという(笑)。
福田
おまけに第二作では、敵の大泥棒が78歳なんですよね(笑)。これも2014年ですが、ポール・アダム『ヴァイオリン職人の探求と推理』『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』(青木悦子訳、創元推理文庫)もイタリアの年老いたヴァイオリン職人が主人公でした。2016年刊行だと、スウェーデンの作家、カタリーナ・インゲルマン=スンドベリ『犯罪は老人のたしなみ』(木村由利子訳、創元推理文庫)が老人ホームを舞台にしていました。
堂場
どこもかしこも高齢化社会で、それを反映しているんでしょうね。老人ミステリーはまだまだ出てきそうな予感があります。
司会
エリアとしてはアメリカ、そして北欧ときましたが、他のヨーロッパの国々はいかがですか。
堂場
意外とイギリス物でめぼしい作品がないかもしれませんね。
福田
少し前にはなりますが、C.J.サンソム『支配者 チューダー王朝弁護士シャードレイク』上・下(越前敏弥訳、集英社文庫)はぜひプッシュしておきたいです。『チューダー王朝弁護士シャードレイク』(同上)、『暗き炎 チューダー王朝弁護士シャードレイク』上・下(同上)と続いてきた、16世紀のイングランドを舞台にした作品です。もう、描写がですね、馬糞がぷんぷんと臭ってくる感じ! 16世紀なんですよぅ〜! それでチューダー王朝でしょ、コスチューム・プレイじゃないですか〜(大興奮)。そして、気は強いけど体は弱い主人公の弁護士が、女子的にはすごくツボなんですよ!(笑)
堂場
おお、そうなんですね……(笑)。


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〈プロフィール〉
田口 俊樹
(たぐち としき)
1950年奈良県生まれ。翻訳家。マルタの鷹協会会員。早稲田大学第一文学部卒業。劇団木馬座勤務の後、1977年、都立高校教員となる。教員生活を送りながら、1977年ミステリー翻訳を手がける。1989年から、翻訳学校「フェロー・アカデミー」講師。ローレンス・ブロックなど、英米ミステリーを主として翻訳している。『ベント・ロード』(ローリー・ロイ著・集英社文庫)、『チャイルド44』(トム・ロブ・スミス著 新潮文庫)など多数。翻訳ミステリー大賞シンジケートの発起人の一人。
堂場 瞬一
(どうば しゅんいち)
1963年茨城県生まれ。青山学院大学卒業。会社勤務のかたわら執筆した「8年」で第13回小説すばる新人賞受賞。スポーツ青春小説、警察小説の分野で活躍中。著書に『いつか白球は海へ』『検証捜査』『複合捜査』『共犯捜査』『解』『社長室の冬』など多数。
福田 和代
(ふくだ かずよ)
1967年兵庫県生まれ。神戸大学工学部卒業後、システムエンジニアとなる。2007年『ヴィズ・ゼロ』でデビュー。大型新人として一躍脚光を浴びる。著書に『TOKYO BLACKOUT』『怪物』『緑衣のメトセラ』『オーディンの鴉』『ハイ・アラート』『宇宙へ』『碧空のカノン』など。
司会/集英社文庫編集長
江口 洋
撮影/chihiro.
構成/宮田久文
会場/赤坂離宮 銀座店