よみもの

◆2017年新春座談会 田口俊樹×堂場瞬一×福田和代◆  
堂場
マジック・リアリズムの本家とも言えるラテンアメリカのミステリーも、ぽつぽつと入ってきていますよね。アルゼンチンからは、グスタボ・マラホビッチ『ブエノスアイレスに消えた』(宮ア真紀訳、ハヤカワ・ポケット・ミステリ)。ブエノスアイレスの地下鉄で忽然と消えた愛娘とベビーシッターを捜す男が主人公なんですが、やがて密林に分け入っていくような話になる。これはほとんどマジック・リアリズムだな、と。もう一冊、チリからはロベルト・アンプエロ『ネルーダ事件』(同上)。ネルーダという実在の国民的詩人から、ある医師を見つけてくれるよう主人公が頼まれる――これも「人捜し」を主軸にした物語ですが、こちらは通常のミステリーに近かったですね。

*マジック・リアリズム
ラテン文学ではホルヘ・ルイス・ボルヘスやガブリエル・ガルシア=マルケスの作品にみられる、日常にあるものを、伝承や神話、非合理などといったあくまで非現実的なものと融合させた小説の手法のこと。(編集部注)

田口
ヨーロッパでまだ翻訳が進んでいない地域としては、詳細は明らかにできないんですけれども、追ってポーランドのミステリーを手掛ける予定です。
堂場
東欧! たしかに未開拓ですね、楽しみです。
司会
いよいよ地域も広がってきましたね。ヨーロッパ圏外では?
福田
アジア圏はどうなんでしょうか、タイからは2015年に翻訳ミステリーが届きましたよね。
堂場
コリン・コッタリル『渚の忘れ物 犯罪報道記者ジムの事件簿』(中井京子訳、集英社文庫)ですね。タイの空気をまざまざと感じて面白かったなあ。インドだと、映画『スラムドッグ$ミリオネア』の原作『ぼくと1ルピーの神様』(子安亜弥訳、ランダムハウス講談社文庫)で知られるヴィカス・スワラップがいますよね。本業は外交官で、5年ほど駐大阪・神戸インド総領事館総領事を務めた後、今は本国の外務省報道官のようですが。さらにオーストラリアに飛べばキャンディス・フォックス『邂逅 シドニー州都警察殺人捜査課』(冨田ひろみ訳、創元推理文庫)が日本にも紹介されましたし、南アフリカには『デビルズ・ピーク』(大久保寛訳、集英社文庫)などの翻訳があるデオン・マイヤーがいますね。
田口
2017年も、世界各地から多彩なミステリーがやってきそうですね。
司会
最後に、皆さんの本年の出版予定などを教えてください。
福田
昨年11月に『広域警察 極秘捜査班 BUG』(新潮社)という、16歳で死刑囚になった天才ハッカーを主人公に、グローバリズムと反グローバリズムのせめぎあいを描く長編を出しました。今年は2月に、『S&S探偵事務所 最終兵器は女王様』(祥伝社)の刊行を予定しています。
堂場
私は『社長室の冬』(集英社)を昨年12月に出しまして、今年はまずこの1月に『錯迷』(小学館)を皮切りに刊行していく予定です。
田口
ダニエル・コールというイギリスの新人作家の『ぼろ人形(仮)』(集英社文庫)という作品を手掛けます。なかなかの話題作で、ちょっとびっくりさせられるバラバラ死体が出てきます。また、ボストン・テランの『ギヴ――犬とアメリカの物語(仮)』も出るはずです。
福田
やったあ! ボストン・テラン、久しぶりの新刊ですね!
田口
あとはロス・マクドナルドの『動く標的』の新訳(東京創元社)があります。
堂場
マジですか? ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーと共にハードボイルド御三家で育ってきた人間として、本当に嬉しいニュースです。
司会
本年も、先生方の新作を日々心待ちにしたいと思います。ありがとうございました。




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〈プロフィール〉
田口 俊樹
(たぐち としき)
1950年奈良県生まれ。翻訳家。マルタの鷹協会会員。早稲田大学第一文学部卒業。劇団木馬座勤務の後、1977年、都立高校教員となる。教員生活を送りながら、1977年ミステリー翻訳を手がける。1989年から、翻訳学校「フェロー・アカデミー」講師。ローレンス・ブロックなど、英米ミステリーを主として翻訳している。『ベント・ロード』(ローリー・ロイ著・集英社文庫)、『チャイルド44』(トム・ロブ・スミス著 新潮文庫)など多数。翻訳ミステリー大賞シンジケートの発起人の一人。
堂場 瞬一
(どうば しゅんいち)
1963年茨城県生まれ。青山学院大学卒業。会社勤務のかたわら執筆した「8年」で第13回小説すばる新人賞受賞。スポーツ青春小説、警察小説の分野で活躍中。著書に『いつか白球は海へ』『検証捜査』『複合捜査』『共犯捜査』『解』『社長室の冬』など多数。
福田 和代
(ふくだ かずよ)
1967年兵庫県生まれ。神戸大学工学部卒業後、システムエンジニアとなる。2007年『ヴィズ・ゼロ』でデビュー。大型新人として一躍脚光を浴びる。著書に『TOKYO BLACKOUT』『怪物』『緑衣のメトセラ』『オーディンの鴉』『ハイ・アラート』『宇宙へ』『碧空のカノン』など。
司会/集英社文庫編集長
江口 洋
撮影/chihiro.
構成/宮田久文
会場/赤坂離宮 銀座店