連載
「沖縄コンフィデンシャル」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

 ヘルメットが風を切る感触が心地よかった。
 すぐに五月の沖縄の日差しが全身を包み、汗が噴き出してくる。
 梅雨に入る前の蒸し暑い日々だ。今年は梅雨入りが遅れ、一気に夏が来たような晴れた暑い日が続いている。湿度は高く、息苦しいほどだ。これも地球温暖化のせいか。
 サングラスを通した強い陽が目の奥に沁(し)み込んでくる。
 ノエルの言葉がよみがえった。「来れば分かる」どういう意味だ。
 那覇中央病院は新都心にある。ノエルと具志堅の電話は、おそらく同じ事件だ。
 那覇新都心とは、那覇市北部の再開発地区のことだ。高層の商業ビルやマンション、公共施設群、モノレールの駅、県庁地区とともに那覇の新しい顔となる場所だ。
 米軍牧港(まきみなと)住宅地区が返還されたとき、その跡地を含む二百十四ヘクタールが再開発された。広くて近代的な大型ショッピングセンターを中心に、高級ブランド品の大型免税店、県立博物館、総合運動公園が集まっている。
 那覇中央病院に駆け込み、看護師に告げられた集中治療室に行くと、若い制服警官が廊下の椅子に座っている。
 赤いハイビスカス柄のアロハにくたびれたジーンズ、スニーカー姿の反町を見て、顔をしかめて立ち上がった。異様に色が黒いのは、サーフィン焼けだ。
 警察手帳を見せると姿勢を正して敬礼した。
 手の平を返したような態度に驚きながら反町も背筋を伸ばし返礼したところで、エレベーターが開き、ノエルと二人の男が出てきた。
 男は比嘉(ひが)という、反町も知っている五十代半ばの那覇署の刑事だ。彼の相棒は親泊(おやどまり)、反町の一歳下の刑事だ。何度か一緒にサーフィンをしたことがある。彼らは沖縄生まれ、沖縄育ちの生粋のウチナーンチュだ。比嘉は白のカッターシャツ、親泊は赤いかりゆしウェアを着ている。かりゆしウェアは沖縄では正装として通るが、勤務中に着るには派手すぎる。親泊も所轄の跳ね返り者か。
 二人が怪訝そうな顔で反町を見た。ノエルを見ると顔を背けている。
「女が襲われて大怪我をしたって言うから来てみた」
「引ったくり、物取りでしょう。わざわざ県警本部の刑事さんが来ることはありませんよ」
 比嘉の言葉は皮肉にも取れる言い方だ。トゲを含んでいる。
「反町さんは、天久(あめく)警部補が呼んだんです。二人は同期ですから」
 親泊が取り繕うように言う。
 反町はノエルの腕をつかんで二人から離れ、声を潜めた。
「なんで俺を呼んだ。那覇署の奴らに嫌味を言われた」
「手術が終わって集中治療室に運ばれたところ。担当医に会ってきた。頭を打ったことによる脳挫傷だけど軽い部類。手術で血腫を取り除いた。処置が早かったので、今のところ命に別状はない。けど、意識は戻ってない。現場はショッピングセンターの駐車場」
 ノエルは反町の言葉を無視して一気に言った。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
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第一章 真実の行方