連載
「沖縄コンフィデンシャル」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

「被害者は儀部優子、三十二歳――」
 反町はノエルから聞いた事件の概要を具志堅に説明した。具志堅は平然とした顔で聞いている。
「そうなんだろ」
 横で聞いていた所轄の二人に同意を求めると、慌てて頷いている。
「女の意識が戻ると、犯人の識別は可能ということか」
「もみ合っていますから、顔は見ていると思われます」
「他の目撃者はいないのか」
「アメリカ人の老夫婦だけです。犯人が逃げる後ろ姿を見ていますが、ほんの一瞬で顔は見ていないようです。すでに帰ってもらっています」
「特徴は聞いたか」
 続けて質問する具志堅から沖縄言葉が消えている。
「背の高い痩せた男。ライトブルーのポロシャツを着て、若い感じだったと言っています。その他は不明です。ほんの一瞬、後ろ姿を見ただけです」
 具志堅が考え込んでいる。
「被害者は儀部誠次の奥さんです」
「だから、おまえに電話した。俺は様子を見にきただけだ」
 具志堅が平然とした顔で言う。
 しかし、と言って反町と親泊の二人を見すえた。
「初動捜査では先入観は入れるな。誰の女房であろうと関係ない。白紙で当たれ。すべての状況を把握した後で、様々な事情を当てはめて考えろ」
 反町の思いを察してか、淡々とした口調で言うとエレベーターのほうに歩いていく。

 反町は県警本部に戻るというノエルを追って駐車場に行った。
「おまえ、いつから警部補になった。親泊がそう呼んでた」
「先月の試験で通った。別に隠してたわけじゃない。来月の官報に載る」
「俺には何も言わなかっただろ」
「昇進するのに、あんたに断る理由なんてない」
「だいぶ、元気になったな。立ち直りが早いタチだな」
「あんたこそ、大丈夫なの」
 ノエルの声が返ってくる。
 反町の心の奥に押し込めている思いが微(かす)かに疼(うず)きだす。
「時間に遅れないでよ」
 その思いを打ち消すように、ノエルが車から顔を出して怒鳴った。今夜、同期の三人が集まって飲み会をする約束になっている。



    5     10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 次へ
 
〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
※本サイトで連載していた『琉球コンフィデンシャル』は『沖縄コンフィデンシャル 交錯捜査』に改題し、集英社文庫より好評発売中です。本連載は、その続編となります。
詳しくは BOOK NAVIへ
Back number
第一章 真実の行方