連載
「沖縄コンフィデンシャル」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

 ノエルの専用車になっている、国際犯罪対策室の黄色い軽自動車が走り出すのを見送ってから、反町はロードバイクに乗った。
 天久ノエルは反町と同期で階級は同じ巡査部長だったが、先の昇進試験に受かったらしい。二十九歳の警部補はノンキャリとしては異例の早さだ。反町は試験を受けることさえ、考えたことがなかった。
 エキゾチックな日本人にしか見えないが、ノエルは黒人と白人のハーフの米兵と日本人の母の間に生まれた。顔は母親、体つきは父親の血を引いていると言っていた。身長は百七十五センチの反町とほぼ同じだが、脚の長さに反町は目を見張ったものだ。
 根っからのウチナーンチュで、県内の国立大学法学部を出て、在学中に交換留学生として一年間ハワイ大学に留学した。英語はネイティブ並みだ。
 所属は刑事部刑事企画課・国際犯罪対策室だ。
 沖縄は基地がある関係で外国人がらみの事件が多い。さらに最近は中国人を筆頭に、韓国、台湾など近隣アジア諸国からの観光客が爆発的に増えている。その対応のための部署で、英語に堪能な警察官を置いている。
 ノエルはやっと以前のノエルに戻りつつある。少し前までは平静を装っているのが見え見えで痛々しかった。半年ほど前、沖縄と東京を巻き込んだ危険ドラッグ事件では、心身ともに大きな痛手を受けた。すぐに立ち直れというほうが無理だ。この事件では反町も大きな心の傷を負っている。

 反町は空を見上げた。
 蒼穹が広がっている。その中に数個の白雲が浮かんでいた。
 反町は東京生まれ、東京育ちだが、大学一年の夏、初めて沖縄に来て就職はここと決めた。
 東京から三時間弱。太陽の輝きと空と海の青さ。本土とは違う世界がそこにはあった。日本でありながら、あきらかに違っている。初めて本物の海と空を見たと感じた。自分の居場所を見つけたような気がしたのだ。ここには求めていた世界と人生があると。
 それから毎年沖縄に通い、大学卒業後一年の浪人を経て、沖縄県警に就職した。現在は巡査部長、刑事部捜査一課の刑事だ。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
※本サイトで連載していた『琉球コンフィデンシャル』は『沖縄コンフィデンシャル 交錯捜査』に改題し、集英社文庫より好評発売中です。本連載は、その続編となります。
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第一章 真実の行方