連載
「沖縄コンフィデンシャル」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

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 沖縄県警察本部は那覇市の中心部にある。
 沖縄最大の繁華街、国際通りの西に沖縄県庁、那覇市役所等が集まる官庁街がある。その一角の九階建ての建物だ。
 反町は県警本部に戻ると、その足で捜査二課に行った。
 刑事部捜査一課が殺人、強盗、暴行など凶悪犯罪を扱うのに対し、捜査二課は詐欺、横領、汚職、不正融資・背任などの企業犯罪、経済犯罪、選挙違反などの知能犯罪を扱う。
「約束は今夜だろ。まだ五時間ある」
「話がある。場所を変えないか」
「ここでいい。さっさと言ってくれ。気が散るだろ」
 背後に立った反町に、赤堀がいつも通り振り向きもせずに言った。彼は自分の仕事以外にはほとんど興味を示さない。
 赤堀寛徳(ひろのり)は準キャリアで警察庁採用。沖縄県警に出向してきている。
 反町より一歳若いが、課長補佐で階級は警部。反町の二階級上だ。
「那覇ショッピングセンターでちょっとした事件があった。女性が暴漢に襲われ、殴られて車止めで頭を打って意識不明だ」
「一課の仕事だ。それも所轄だ。僕には関係ない。僕は忙しいんだ」
「襲われた女は優子だ。儀部優子」
 パソコンの画面に目を止めたままだった赤堀が立ち上がると、反町の腕をつかんで部屋を出た。そのまま隣の会議室に入っていく。部屋に入るとドアを閉めた。
「優子が意識不明に――」
「ハンドバッグを取られそうになって、抵抗して頭を打った。今のところ命に別状はないが意識が戻っていない」
「犯人は逮捕されたのか」
「所轄が引ったくりの線で、これから捜査に入る」
 反町は事件の概要を説明した。赤堀が無言で聞いている。
「状況からしたら、単なる物取りだ。彼女はブランド物を身に付けている。ハンドバッグはエルメスだ。問題は三百万円入りの封筒だ。犯人が知ってたかどうか」
「三百万?」
「百万円の束が三つ。ハンドバッグに入っていた」
「犯人はそれを狙ったのか」
「分からん。抵抗したので殴られて倒れた。人が来たので、犯人は何も取らずに逃げている」
 話しながらもどこか引っかかるところがある。何が、と言われれば答えようがないが、違和感があるのだ。優子が車を降りるのを待ち構えていたような犯人――。優子の夫は儀部誠次。これはやはり具志堅の言う先入観か。
「儀部の捜査はまだ続いているのか」
 反町は赤堀に聞いた。
 赤堀は一瞬躊躇するように視線を逸(そ)らせたが、すぐに反町に戻した。
「定期的に上に報告している。儀部が彰(あきら)に対する訴えを取り下げた」
 彼の上というのは、東京の警察庁のことだ。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
※本サイトで連載していた『琉球コンフィデンシャル』は『沖縄コンフィデンシャル 交錯捜査』に改題し、集英社文庫より好評発売中です。本連載は、その続編となります。
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第一章 真実の行方