連載
「沖縄コンフィデンシャル」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

 一年前、赤堀は儀部親子の軍用地がらみの事件について調べていた。
 儀部誠次には二人の息子がいる。最初の妻の子、長男の彰、三十三歳、二番目の妻の子、次男の敏之(としゆき)、二十三歳だ。
 沖縄では長男の立場は絶対的だ。家を継ぎ、護(まも)っていく。中でも旧家である儀部家は特にその傾向が強かったのだろう。そうした立場にありながら、彰は儀部の所有する軍用地の一つの権利書と実印を持って東京に逃げた。怒った儀部は実の息子の彰を窃盗で訴えた。その事件を担当したのが刑事部二課の赤堀だった。
 反町は赤堀に車の運転を頼まれ、儀部の家に行ったことがある。そのとき優子に会った。どこか憂いを含んだ美しい女性だった。優子は儀部の三番目の妻で三十二歳。六十九歳の儀部とは親子ほどの歳の差だ。
 優子の結婚は当時生きていた母親の生活と金のためだと赤堀は話した。赤堀が優子に同情し、好意を抱いていることは間違いない。たしかに、優子の美しさは際立っていた。
「優子を襲ったのは、儀部誠次ということは考えられないか」
「なぜ自分の妻を襲う。おまえ、何か知ってるのか」
「忘れろ。単なる思いつきだ」
 そうは言ったが、赤堀は納得はしていない様子だ。
「二人の関係に思い当たることがあるのか」
 反町が聞いたが、赤堀は答えない。逆に反町に質問した。
「なぜ、優子は新都心のショッピングセンターに行ったんだ。彼女の家は首里金城町(しゅりきんじょうちょう)だ」
「俺が知るか。意識が戻ったら聞いてみろ」
「誰かに呼び出されたということはないか」
「彰のことを言っているのか」
 一年前になるが、優子が彰の東京のマンションに入る写真を赤堀に見せられた。二人はキスをして寄り添って入っていった。優子が出てきたのは翌日の昼だ。二人の関係は義理とはいえ親子に当たる。それを儀部が知れば、赤堀の言葉も思いつきではなくなる可能性もある。
「優子が入院している病院に行きたい。一緒に行ってくれ」
「仕事はいいのか」
「これだって、仕事の一部だ」
 沖縄の公共交通はゆいレールと呼ばれるモノレールとバスだ。電車はなく、ゆいレールも那覇空港と首里間だけだ。あとはタクシーで、車がないと移動には不便だ。
 赤堀は一年近くかけて運転免許を取ったが、極度に運転を嫌っている。何のために免許を取ったのかと聞くと、資格を取るのが趣味だと答えた。
 反町は赤堀を県警の車に乗せて、病院に行った。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
※本サイトで連載していた『琉球コンフィデンシャル』は『沖縄コンフィデンシャル 交錯捜査』に改題し、集英社文庫より好評発売中です。本連載は、その続編となります。
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第一章 真実の行方