連載
「沖縄コンフィデンシャル」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

 背後には香港マフィアが関わっていることが判明した。彼らはこの新種の危険薬物を一斉に売り出す、Xデイを目指して準備を進めていた。沖縄県警、警視庁は異例の協力体制をとってそれを阻止した。
 だが、香港マフィア、ブルードラゴンのボスは、二十六年前に沖縄のアメリカ海兵隊から突然姿を消した、ノエルの父親ジェームス・ベイル元少尉だった。ノエルは実の父に撃たれ、殺されそうになりながらも彼を逮捕した。
 事件後、反町と赤堀は、ノエルを誘って定期的に集まるようにしている。ノエルの様子を確かめ、彼女の気分をまぎらわせるためだ。初めは会うことを嫌がり、ほとんど口を開かなかったノエルも、半年経った今、時折り笑顔を見せるようになっている。
「調子はどうだ、ノエル」
 三人が集まると反町の口から出る最初の言葉だ。
「まあまあよ。ありがとう」
 ノエルも心得ていて、無理にでも笑顔を見せていた。初めはぎこちない笑顔だったが、最近は自然なものに変わりつつある。
「あんたのほうはどうなのよ。サンニンを見ると涙を流してるんじゃないの」
 反町の顔が曇った。捜査の過程で知り合った、ラウンジ〈月桃(げっとう)〉のママ、愛海(あいみ)に反町は好意を抱いていたのだ。愛海は黒人の米兵と日本人女性とのハーフだ。
 サンニンというのは花の名で、月桃をあらわす沖縄の方言だ。房状に白い花が咲き、甘い香りがする。
「ごめん。私だって涙が出る」
 愛海のどこか憂いを含んだ彫りの深い顔が反町の脳裏に浮かんだ。
 その思いを振り払うように、さてと言って、反町は身体を前に倒した。これから内緒話だという合図だ。
 三人は額を寄せ合うようにして、小声で話し始めた。
「最近、儀部には会っているのか。儀部誠次、親父のほうだ」
 反町は赤堀に改めて聞いた。
「優子さんの件は所轄の担当者から連絡がいってるが、僕からも事件について儀部さんに報せておいた。知らん顔をしてるのも不自然だし」
「儀部の反応は?」
「既に家族から聞いて知ってた。彼は博多にいる。急きょ帰ってくるそうだが、明日になる」
 電話はアリバイを確かめる意味合いもあるのだろう。
「彼ならヘリをチャーターすることも可能だろう。宮古島のサトウキビ畑の視察に時々使ってる」
「命に別状ないと言うとホッとした様子だった。声の調子からの推測だが」

 


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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
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第一章 真実の行方