連載
「沖縄コンフィデンシャルⅡ」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

「儀部と優子はうまくいってるのか」
 反町はわざと聞いて赤堀の反応をうかがった。赤堀は持っていたビールのグラスをテーブルに置いて海に視線を向けた。あきらかに動揺している。彼はまだ優子に想いを抱いている。反町はさらに問いかけた。
「アリバイはあるが、人を雇って襲わせることもできる」
「儀部がそこまでやる理由はなんだ。夫婦仲が悪いだけじゃ動機が弱すぎる」
 反町に視線を戻した赤堀が強い口調で言う。
「だから、儀部が帰ってくるまでにできることはやっておきたい。優子の身辺捜査だ」
「彼女が狙われた理由か。しかし――。那覇署の奴らの推測どおり、単なる物取りの犯行かもしれない」
 赤堀の動揺が反町にも伝わってくる。
「それを疑っているのはおまえだろ。だから所轄は──」
「彼女は家から直接、ショッピングセンターに行ったのか」
 反町の疑念に対して赤堀が聞いた。
「そこまでは調べていない。所轄の奴らだって同じだ。彼女は被害者だぞ」
「何のために、ショッピングセンターに行ったんだ」
「俺が知るか。優子に直接聞け」
 言ってから反町は後悔した。赤堀の顔は真剣そのものだ。反町はノエルに視線を向ける。
「三百万円入りの封筒はどうなった」
「ハンドバッグを所轄に渡したら、病院で預かってもらえって。所轄も扱いに困ったんじゃないの。被害者のものだからね。だからお金は病院に来た家族に渡した」
「犯人は三百万を狙ったのか」
「そうじゃないと思う。たまたま入ってたんじゃないの。見るからにリッチって女性だもの。ブランド専門店で買い物があったとか、支払いだってある。百万単位のモノだって普通にある」
 一瞬考えてから、ノエルは言った。
「だったらカードを使うだろ。そんな大金、持ち歩かない。彰は沖縄にいるのか」
「東京だ。東京の知り合いに調べさせた」
 東京の知り合いとは、赤堀の警察庁の後輩たちだ。
「やはり、単なる物取りの可能性が高い。那覇署の連中に任せたほうがいいんじゃないか」
 赤堀は答えない。彼にとっては治療のために髪を剃られ、複数のチューブにつながれて集中治療室のベッドに横たわる優子の姿が忘れられないのか。
「彰は優子の状況を知っているのか」
「そんなことは知らない。彰は東京だって言っただろ」
 赤堀がムキになって答える。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
※本サイトで連載していた『琉球コンフィデンシャル』は『沖縄コンフィデンシャル 交錯捜査』に改題し、集英社文庫より好評発売中です。本連載は、その続編となります。
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第一章 真実の行方