連載
「沖縄コンフィデンシャルⅡ」
第一章 真実の行方 高嶋哲夫 Tetsuo Takashima

 反町の脳裏に、一年前、赤堀が突然反町の下宿にやってきて見せた写真がよぎった。東京の彰のマンションでの彰と優子の密会の写真だ。
「だったら、知らせてやれ。二人の関係を知るのにいいチャンスだ。彰の居場所は分かってるんだろ」
 黙って二人の話を聞いていたノエルが、反町の足を蹴った。かなりの強さだったので反町は思わず顔をしかめた。いい加減にやめろという合図だ。
「本当に趣味の悪い奴だな」
 赤堀が反町を睨んだ。
「東京の友達に優子が襲われたことを、それとなく彰に教えるように指示しろよ」
 反町は繰り返した。
「確かに何かが動くかもしれないな」
 今度は赤堀までもが呟く。
 ノエルが二人を交互に見て、呆れたように息を吐いた。
「儀部と彰のほうはどうなってる。儀部はなぜ訴えを取り下げた」
「やはり親が実の子を訴えるなんてのは、良心が痛んだのだろ。彰は長男だ。世間体だってある。沖縄では特にそうだ」
 反町は儀部と優子の現状についてさらに詳しく聞きたかったが、ためらっていた。彰が加わると普通の三角関係より、さらにドロドロしたものになる。
「最近、基地返還後の土地利用でいろんな噂が飛び交ってる。だが、どこまで真実なのか分からない。おまえは関わってるから知ってるだろ」
 反町は話題を変えようとした。
 米軍用の基地外住宅の建設とか、本土の富裕層対象の高級リゾートマンションや、高級老人ホームの建設というものまである。最近噂されているのは、大型リゾート施設の計画だ。
「今、沖縄は動いている。若い奴らの中には基地返還を叫ぶだけじゃなくて、共存の方向を探る者たちもいる。今後、この動きはますます大きくなる」
「儀部親子も共同で何かするつもりか」
「そこまでは知らない。おまえが直接聞いてみろ」
「帰りましょ。二人ともますます趣味が悪くなってる。私はついていけない」
 ノエルが立ち上がった。

 そのまま家に帰るというノエルや赤堀と別れて、反町は県警本部に戻った。
 午後十時を過ぎていたが、捜査一課にはまだ数人の刑事が残っている。
 昔は寝食を忘れて犯罪捜査に情熱を燃やす刑事が多かったが、今はサラリーマン刑事ばかりだと去年退職した刑事がこぼしていた。
 反町は刑事の心意気の低下より、時代の流れで捜査のやり方が変わったのだと思っている。スマホ、パソコン、インターネット、SNSの影響だ。防犯カメラやDNA鑑定など、技術の進歩もある。さらには犯罪者の意識だ。インターネットやSNSを使って、直接相手と顔を合わせない、声さえ交わすことのない犯罪が増えている。
 しかし具志堅を見ていると、その退職刑事の言葉もまんざら的はずれではない気がする。足と経験と勘で愚直に事件を追う、古いタイプの捜査手法も重要だ。
 反町は具志堅がいないのを確かめて、県警本部を出た。いれば今日一日のことを話しておこうと思ったのだ。



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〈プロフィール〉
高嶋哲夫(たかしま・てつお)
1949年岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒業、大学院修士課程修了。
日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。
79年、原子力学会技術賞を受賞。
94年『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。
99年『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。
著書に『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『首都崩壊』など多数。
※本サイトで連載していた『琉球コンフィデンシャル』は『沖縄コンフィデンシャル 交錯捜査』に改題し、集英社文庫より好評発売中です。本連載は、その続編となります。
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第一章 真実の行方